キーフ・クレイマー著「Call me.」

-09,09 : Keef Cramer.


進める足がまるで死体みたいに重たかった。

それなのに自身の意思とは関係なく重たい足はどんどんと進んでいった。

乾いた砂埃が舞い上がり土と汗の匂いがする

もう進みたくないと僕は嘆いているのに足はどんどんと先へと進んで行く。


灰色の空がうっすらと光を帯び、まるで僕等の希望のように真っ白に輝く。

その灰色の意味を知りながらも、僕等はそれに縋るしか無い。

青い空がもう一度見たかった。

貴方の隣で見ていた、あの真っ青な空がもう一度見たかった。


その為に僕等は戦っているのだと信じた。

誰が敵かも分からなかったけれど僕等は必死に戦った。

自分の愛する物の為に、そう信じていた。

信じていなければ、前に進む事すら出来なかった。


全てがぶつかり合った後に残る物なんて何も無かった。

色が消えた街から、音も消え、悲鳴も消え、人が消え、生気が消え、

何もかもが無くなってしまった。

動かない体を道路の真ん中に横たわらせ、ただ。真っ白な空が広がっていた。

妙に抜けていて眩しい空に目を細め、全ての終わる音を遠くの方で聞いていた。


自分は何の為に戦っていたのだろうか。

敵なんて本当にいたのだろうか。

それなら僕は一体誰を殺したのだろうか。


同じように苦しんで、同じように悩んでいて

叫びながら、喚きながら、何もかもを賭けるように

ぶつかり合った同じようなもの。

粉々に砕け散って足元に、そこらじゅうに散らばっている。

うめき声を上げながら、痛みにもがき苦しみあがいて

もう少ししたら其の声さえも聞こえなくなる。

泥に汚れた道のど真ん中で、黒こげに崩れた街に佇みながら

僕等の薄い希望みたいな真っ白な空の下に居る。


僕は一体、何を殺してきたのだろうか。

もしかしたら人間だったのかもしれない。


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■引用詳細

Keef Gramer伝記『Call me.』より抜粋。

二〇〇五年九月十三日 - 発行。


■Keef Cramer(キーフ・クレイマー)

 ナチス・ドイツ時代に、ワルシャワに滞在したドイツ軍将校。

ポーランド首都のワルシャワに駐屯中近くの戦場廃墟で一人のユダヤ系青年と出会う。彼はその青年の語る様々な言葉遊びに感銘し、彼を匿い救った。彼自身はホロコーストの行為を嘆き悲しんだが、時代背景から口を噤む事しか出来ない自身に自責の念を抱いていた。

 後に中隊長へと移籍、ソ連軍との戦いの戦いに身を投じ終戦時に戦場捕虜となる。法廷上で12年間におよぶ自身の嘆きを吐露、ドイツ軍からも追放され、戦犯としてレニーグラード収容所に投獄され息を引き取った。


 本作品の伝記は、彼が青年と出会ったすぐ後に書かれた日付の文章より抜粋。息を引き取る際、彼の独房にあった持ち物は彼自身の手書きのこの手帳とFrederick・M・Marchフレデリック・M・マーシーの「-SKY FAKE-」の単行本のみであった。古くなり傷んだ紙には戦時中の生々しい痕が多く残されている。

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