44 還元


<ええい。無駄な攻撃ばかりを!>

 オーイ教授は苛ついていた。


 教授である自分の思考エネルギーを、ギョンを形成するニョイニウムに注入してあるのだ。この程度の攻撃を防げないギョンではない。


 しかし、自身の「操縦経験」の未熟さは、今起こりつつある経験によって知覚せざるを得なかった。


 言わば、ジョン・ロックの言う「感覚と反省」。


 そして、「劣っている」という事項は、オーイにとって、認めることの出来ない概念であった。


 そこに――、


 プティの、ありったけの思考 ―力― を込めた探究が、飛んで来るのだ。


<貴様らの力は、その程度のものか!>

 勝ち気にはやったオーイは、ギョンの丸盾を下げさせ、両刃直刀クシポスを構えさせた。


<ギョンよ、飛び来る針状物体を迎撃。その後、突撃だ。前方の白い機動哲学先生モビル・ティーチャーに、身の程を知らせてやれ>


『承知した。我が生徒搭乗者スチューロット、オーイよ』


<私を生徒と呼ぶなバカが! オーイ先生と呼べ!>


 シュルルルルル ―超速飛行―  ドゴオオオオオ!! ―爆発―爆発― 


 オーイ教授が乗る、たてがみの機動哲学先生モビル・ティーチャーギョンは、エネルギー弾を放った。それは、これまでのように軌道変更をせず、中途で爆発。


 ボシュウウ ―探求針― ――――ボワアアン! ―誘爆―爆発― 


 その爆発に巻き込まれた、ロックウェルの探求針は誘爆。宇宙に大きな火の玉が生じる。


 その火の玉を越え―― 


 ドドドオオッシューオオオ!  爆速スラスター  


 ギョンが両刃直刀クシポスを水平に構えて、突撃する。


 その先には、エネルギー ―思考力― を使い果たしたロックウェル。


「しまっ!」

 いち早く反応したシューがデカルトンを、ロックウェルとギョンの間に、挟み込もうとする。


 コムロも反応するが、「プティを守る」という思考に辿り着くまでの時間が、数コンマ秒単位でシューに対して遅れる。


 教授が駆る機動哲学先生モビル・ティーチャーの突進力たるや。


 ギョンとロックウェルとの距離がみるみると縮まる。

 

 その間に、かろうじて割って入ったデカルトン。

  

  『ワレモノ・注意』のシールがデカデカと貼ってある右腕を伸ばして突き出した、「ワレモノ・ライフルをブレードへと変形させる、その途中の物」。

 

 それを、ギョンの両刃直刀クシポスが、突進の勢いで弾き飛ばす。

 

 ドッギャアアアアア! ―はじかれますた― 

 

 シューは、超速によるギョンの突進の、その移動軸の重心に、デカルトンの重心を合わせることができなかった。


「うおおおお!」

 ぐるぐると回転しながら、斜め後方へと飛ばされる、デカルトン。


「……くそっ!」

 コムロの、カントムによる救いも、間に合わない。


「え……」

 ただ一言の、プティ。


 ロックウェルの、自動回避行d……


 そのまま……


 ホッシュウ ―補習― ウウウウウ!  ―刺さる―  


 両刃直刀クシポスが、ロックウェルの腹部に、深々と突き立てられた。


「あ……、あ……」

 スラスター噴射で回転をやわらげたデカルトンの中で、声にならない声で呻くシュー・トミトクル。


 両刃直刀クシポスが抜かれ、ギョンは距離を取る。


 ロックウェルの機体がスパークする。


「せんぱい、ありが……」

 通信システムを流れる、短い言葉。


 機動哲学先生モビル・ティーチャーロックウェルが「やられた」という概念を表明する時間も、脱出ポッドで脱出する時間もなく――


 ロックウェルの白い機体を、いっそう白い光が覆い、そして、宇宙を満たした。


 ――


 概念宇宙暦185年。多くの惑星において、季節は冬。


 白紙の心タブラ・ラサを経験によって色鮮やかに埋めつつあった、黒髪の花が、再び白へと還元した――


 ―続く―

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