41 反抗
「ふ……ざけんなよ! 何で、そんな理由で戦わなくちゃいけない!」
稲妻のマークの入った
<何を怒ることがある? 先程までの戦いを、続ければいいだけだ。解決すべき問題は、何も変わっていないだろう?>
オーイ教授の口調は淡々としていた。
『
ヒューマン哲学者デューイをベースにしたデュイエモンが、声変わりして10年ほど経過したようなガラガラ声で、そう答える。
「みんな、人生を背負ってんだ。それを……研究データだ?」
ヌレギヌが駆るデュイエモンが、ライフルを構え――
<うるさいな。実験の邪魔だ>
たてがみを持った
「
肩に黄色い稲妻を備えたデュイエモンは、わずか一撃で、あっけなく爆散した。
「ヌレギヌさん! くそっ! なんてことだ!」
コムロの悲鳴。
<
蚊でも潰したかのような口調で言う、オーイ教授。
<若輩者が、人生などを語ろうとするからだ。学問の厳しさも知らぬひよっ子が>
教授の、冷徹な査定が下される。
(この敵は……強い……)
オーイ教授が乗る
それに感応した、カントムを形成するニョイニウムが、ブルブルブルブルーという音を立てる。
<低スペックのデータに意味は無いから、サンプルを1つ、排除させて頂いた。我が
「――ギョン……」
「――ギョン……?」
「――え?……えっと……」
コムロ、シュー、プティの3人。そのいずれもが、その名に見当をつけかねていた。
イマヌエル・カントをベースにした「カントム」、
ルネ・デカルトをベースにした「デカルトン」、
ジョン・ロックをベースにした「ロックウェル」、
そして、爆散してしまった、デューイを思考ベースにした「デュイエモン」。
ギョンという名に関連するヒューマン哲学者について、皆一様に、思い当たる節がなかったのである。
<あ、ああ。言っていなかったな。この機体は特注でね。古代ギリシャ・ヨーロッパ系のヒューマン哲学者の3人。ソクラテス、プラトン、そしてアリストテレスを、思考ベースにしてある>
「そんなことができるのか……」
コムロは、驚愕と、それを上回る程の自己の好奇心を、知覚していた。
――言わば、往年のカセットタイプのゲームソフトを30本プリインストールした「クラシック」筐体のような。
――先生が先生に搭乗する「マトリョシカ」構造のような。
「どういうこと?」
疑問で、
「哲学者を3人もだと! ……まともに
かく言うシューは、デカルトン1人との対話にも、未だに苦労しているのだ。
<私にしか満足に
教授は、「オーイの微笑」を見せた。
<さて……残った3機で、殺しあって頂こう。有意なデータを期待している>
◆
――
――
「せんぱい。私、嫌です。そんな理由で戦うの。私達は実験材料じゃない!」
「……プティ」
プティの
<その白い
「それは違うわ!」
「ちょっと待て! プティ」
無力の辛さを知るシューは、後輩の
オーイ教授が駆る、たてがみの
力においても、権威においても、今は従ったフリをするのが得策であると、シューの頭脳が告げていた。
感情的には不本意極まりないが、2対1の優勢な状態で、
しかし――
「だって! おかしいでしょ、せんぱい! 私達は、戦争を終わらせる為に、戦っているはずなのに!」
「それはそうだが……」
<意志では、力には勝てない。そんな事も理解していないのか? これだから、青二才は>
「ふざけないで!」
プティは、ロックウェルの右手を上げ、探求針を発射させようとする。
その目標は、本来は友軍であるはずの、たてがみの
「待て! それはマズイ!」
シューは慌てて、プティの乗るロックウェルを止めようとするが、間に合うものではない。
ロックウェルが放った、宙を駆ける
着弾。
ロワワワアアアアアン!
爆煙が上がり、そして消える。
その中から、丸盾を構えた、たてがみの
――まったくの、無傷であった。
<聞き分けの無い観測対象だな。では、違う実験に切り替えるとするか>
教授はそう言うと、フットペダルを軽く、クッと踏み入れた。
―続く―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます