37 協奏

人間が持つ観念は ―ロックウェルの問い― 生得的 生まれ持った なものか? 全ては経験から生まれるのだ』


 ヌポポポポポポポポ! ―ロックウェルの弾幕― 


感覚と、反省ですね? ―プティの回答― 

『その通りだ、わが生徒搭乗者スチューロット、プティよ。人間は感覚器を通じた経験により、内なる心の様々な作用を知覚する』


 ヒラリヒラリ! ―カントムのライフルを回避―  


「生得観念は、本当に無いのでしょうか? 先生」

『例えば、子供は生まれたときから言葉を理解できるか? それを考えれば明らかであろう』


 ヌポポポ! ―弾幕―  ヌポポポ! ―断続的に― 


「道徳とかは、子供の時からあるのでは?」

『子供は時に残酷な仕打ちをする。動物を無為に殺しもする。また、道徳は、人によって変わるものであり、事前に定義できるものでもない』


 ヒラリ! ―回避―  シュン! ―機動―  ヌポポポ! ―弾幕― 


 ――


 ――



「プティはロックウェルが好む議論を、上手く引き出して戦っている。見事な思考エネルギー入力だ!」

 シューは、後輩生徒搭乗者スチューロットの成長に、再び舌を巻いた。


「デカルトン先生、ワレモノ・ライフル!」

『ライフルを、どうするのだ?』

「ええい! ライフルを構えて、近づく敵に発射!」

『承知した』

 相変わらず、コミュニケーション・エラーを起こす、デカルトン先生とシュー・トミトクル。


 機動哲学先生モビル・ティーチャーの運用の最大の問題……


 それは、「出力」と「操作性」のトレードオフ関係にある。


 機動哲学先生モビル・ティーチャーは、基本、小難しい。生徒搭乗者スチューロットの思い通りにコミュニケーションを取るのは難しい。


 しかし、予め決めた通りに操作しようとすると、今度は生徒搭乗者スチューロットの思考の練りが浅くなって、武器出力、装甲等のスペックが上がらない。思考に基づいて変化する「ニョイニウム」で出来ているからだ。


 その二律背反を、黒髪の後輩生徒搭乗者スチューロットは、「好奇心」によって両立させようとしていた。


 すなわち、白紙の心 ―タブラ=ラサ― だからこその好奇心が、自然に、機動哲学先生モビル・ティーチャーに対する質問を生む。


 その質問に対し、機動哲学先生モビル・ティーチャーの反応は良好だ。コミュニケーション・エラーが起こりづらい。


 一方、生徒搭乗者スチューロットの知的好奇心に基づいて議論が進むのだから、当然ながら、ニョイニウムへと流れる思考エネルギーは大きくなる。


 一見、両立した方法論。


 まだ、知識や経験の少ない「優秀な新米生徒搭乗者スチューロット」だからこそ成立する事象。


 言わば「輝いている」状態のプティ+ロックウェルに加えて、経験を積んだシュー+デカルトンがやや前方に出て、防御と援護に回っている。


「近寄れない……!」

 いかなコムロとカントムとて、追い込まれるのは必定だった。


 ――


「よし、いい調子だぞプティ!」

「もっと、色んな事を知りたいです。私は!」

 プティの眼が輝く。生徒搭乗者スチューロットスーツに覆われたセミロングの黒髪はなびかない。


「くそっ、手ごわいっ!」

 2対1の劣勢に、焦るコムロ。


「プティ! 今だ!」

 思考を用いた戦闘技術において、プティに対して一日の長があるシューが、タイミングを測る。


「はいっ! せんぱい!」


 ワレワレハ――! ―ワレモノ・ライフル― 


 ボシュッボシュッ! ―白い探求針― 


 2体の敵に対し照準を定めきれないカントムを、デカルトンとロックウェルによる十字砲火が襲った。


 ポシュッ! ―切り落とし― 


 ドゴゴオオオオオ! ―至近爆発― 


「ぐわうわうわう!」


 十字砲火に襲われたカントムは、一方の砲撃をア・プリオリ・ブレードで撃墜成功。しかし、もう一方を被弾。


『ヤバイという概念』

 人間とは身体図式の異なる「金属の塊」であるカントムは、その概念を理解していたようである。


 カントムとスペック的に近似である敵が2体だ。


 しかも、その2体の機動哲学先生モビル・ティーチャーは、見事な連携が取れている。


(なにか、状況を打開する方法はないか?)

 先の戦闘で敵軍右翼を各個撃破した際、赤髪の男が操る機動哲学先生モビル・ティーチャーへーゲイルとの戦いで、「機動」の意義を学んだコムロ少年ではあったが、眼前の2体の強力な敵を前に、対処法を考えあぐねていた。


 そこに、


 ドッチュウウウウウ!


 ――


 ドッチュウウウウウ!


 遠々距離から連続で放たれた、二条のライフル。


「おおっと!」

「わっ!」

 追い打ちの機先を制されたシューと、後輩のプティ。


 ドッシュオオオ! ―スラスター音― 


 カントムの後ろから近づく光点。


 フロンデイア軍の、機動哲学先生モビル・ティーチャー


 宇宙に溶け込むような藍色の機体には、その肩部分に黄色い稲妻の模様があしらわれている。


 ドッシュウウウゥゥ ―スラスター音―  シュドッ! ―制動―  シュドッ! ―制動― 


 藍色に稲妻模様の機体は、制動スラスターをかけてカントムの横に並び、リバタニア軍の2機の機動哲学先生モビル・ティーチャーと対峙する。


「大丈夫かな?」

 藍色の機動哲学先生モビル・ティーチャー生徒搭乗者スチューロットが、気さくな声音で通信してくる。


(この声――)

 コムロはそう思いつつ、口に出しては、


「逃げてください。この敵は強いです」

 と返した。


「俺も強いよー? って、聞いたことある声だなぁ」

 緊張感の無い声が、帰ってくる。


「……もしかして、補給基地での?」

「――ああ! クレーンゲームの時の! 生徒搭乗者スチューロットだったのか、君!」


 藍色の機体に搭乗した青年、ヌレギヌは笑った。

 テレビ番組「デモクリトスイッチ」の人気キャラクター、「コーシ君」のような笑い声。


「ええ。コムロって言います」

「そっか。俺はヌレギヌ。って、さて――」

 少し遅れた、互いの自己紹介。


 ボサボサの髪を生徒搭乗者スチューロットスーツのヘルメットに収めたヌレギヌ青年は、リバタニア軍所属の2体の敵へと、意識を向けた。


 そして青年は、コーシ君のように笑った。

「2対2、と行こうか?」


 ―続く―

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