27 速度


 ――小難しいので


 ――読飛ばし推奨


弁証法―闘争―こそが、人類を真の真理ヘーゲイル先生のへと導く唯一の方法である テーゼ 


その通り!  赤髪が   闘いで強くなる!  ブンブン揺れる   それがオレだ!  アカボス  


唯一の方法?  コムロの疑問   他の方法が無いと、  悪魔の証明  どうして言い切れる!?   アリストテレス風味   


人類の歴史も  ヘーゲイル先生  弁証法によって進展真理と歴史を同様のテーブルにし、真の自由 フロンデイア? を実現する、究極の理想社会  なんかかっこいい  を作り出すだろう。それが人類や歴史の存在意義  ―ドーン!!(もぐろ)―  だ』


そのヘーゲル哲学  カントム先生  も、誰かに否定されなければ  キルケゴール的な  アウフヘーベンとはならない  冷静ツッコミ  


弁証法で歴史の  コムロ君も  真理にたどり着く  カントム先生に  まで何年かかる!  乗っかったお!   俺たちの現実は  キルケゴール風  どうするんだ!」


俺らが進めりゃ  アカボスさん  いいだろうが! サルトル的発言 


それは扇動という概念だ  カントム先生は冷静  』 


『そもそも、人類が目指すべき理想の歴史は  コムロ君の、長い  存在するのか?  演説   西洋の思想に偏った  レヴィ=ストロース的なやつ  現状の延長線上に』


 思考と、身体を駆使した死闘。


 そこに割って入り得る者は、この区域には存在しなかった。  小難しいパート終了  


 ◆


 刃をぶつけ合いながら


 議論をぶつけ合いながら


 戦況万物変化流転する。


 紅潮した赤髪の青年から、徐々に笑みが消えていく。


「……くっ!」


「なにっ!」


 驚きの声が、ヘーゲイルのコックピット内に響く。


 格闘による攻防が進む毎に、鋭さを増す、カントムの反応。


「……どういうことだ!」

 困惑の表情を浮かべながら、アカボスはヘーゲイルとの問答。3連突きを放つ。


 しゃぁっ! しゃぁっ! しゃぁっ!ででっ ででっ


 これを悠々とかわすカントム。ヘーゲイルの、三角柱の 上は三角 弁証剣は 横は四角 むなしく宙を斬った。


 シュドッ! スラスター  シュd……


 ブオンッ! ―振りかぶり― 


 ぷもももももももーん!  ―振り下ろし―  


 ジグザグ機動に入ろうとするヘーゲイルへの、カントムによるカウンターの一撃。


「くうっ!」

 その表情から余裕が消えたアカボスは、ついに、ヘーゲイルを跳躍させた。


 刹那、彼我の距離が開く。


 ドッシュウウウウウー  ―スラスター音―  


 ――アカボスの視界に入ったもの。


 それは、純粋理性を示す「青」から、「紫」へと変化した、棒状物体。


「なっ!」


 数刻前をなぞるように


 ソレが通過する体積が最小になるように


 一直線に突き出されたのは


 カントムが握る、青紫のブレード


 「紫」の機動哲学先生モビル・ティーチャー、ヘーゲイルの腹部中央に


 さっくりザザザザシュッ!


ぐええええええ!おなかいたい!』 


 やはり、「やられた」という概念を理解していた、ヘーゲイル。


「な、なぜ……」

 アカボスの表情は凍りついていた。


 そして――


 ――無音――静寂――ドッ


 ドッドドドドウド  ―宮沢賢治風―  ドドウドドドオオン   ―爆音―   


 「赤髪の」アカボスの視界が。


 宇宙が。


 白く、塗りつぶされた。


 ――


 ――


「……っ、ふうぅぅ」

 緊張で固められた息をまとめて吐き出す、コムロ=テツ少年。


『学びの多い対象であった』

 低い癒し系ヴォイスで、カントム。


「厳しい相手でした……カントム先生」

 コムロの緊張を示す前傾姿勢が、リクライニングへと変化する。コムロがシートに体をあずけると、それに感応してシートの硬度が変化。「やわらかふかふか」がコムロを受け止めた。


「――すごい……人だったな……」


 能動的な意志と、力への希求。敵の生徒搭乗者スチューロットからそれを感じたコムロは、素直に賞賛の気持ちを口にした。


 ――カントムも、ヘーゲイルも、人間の思考を糧とする金属「ニョイニウム」で形成されている。


 共に、優秀な生徒搭乗者スチューロットが搭乗している。


 何が異なったのか?


 それは、相手の思考を吸収する力。


 すなわち、止揚アウフヘーベン


 ――


 戦いの、極めて短い時間。


 「赤神の」アカボスは、自らが練り上げた高機動戦法を、敵に全力でぶつけた。


 そしてコムロは、自己の不利を悟った。


 自己に足りない点を悟った。


 相手の攻撃の本質を、コムロが見抜いたピカカキッ!からだ。


(思考力だけではだめなのか!?)


 他者からの刺激は疑問を生じさせる。


 疑問が与えられれば、解決法の模索へと思考の舵が向く。


 その一連のスピードにおいて、コムロはアカボスを、完全に凌駕していた。


 そして、2体の機動哲学先生モビル・ティーチャー同士の、幾度にもわたる剣合の時が、情勢を、


 劣勢から膠着へ


 膠着から優勢へ


 そして――


 優勢から圧倒へと


 導いたのだった。


 白い爆発光が収まった地点には、絶対温度3K摂氏−270℃の黒が生じた。


 ――フロンデイアの突進を阻む、強力な敵の消失。


 戦況が動きだす。


 フロンデイア軍の進撃速度が上がる。


 そして、リバタニア右翼集団を打ち破りつつある。


 その後背には広大な宇宙空間。


 事態は、フロンデイア軍の目論見に従い、動き始めたかにみえた――。


 ―続く―

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