26 赤神
「これ以上やらせるか!」
敵の
劣勢の味方と、ヘーゲイルとの間に割って入ろうという意図だ。
「歯ごたえありそうな奴が来やがった!?」
赤髪の
一合目は互角、いや、カントムが力勝ちしている。
「……やるじゃん!」
アカボズはそう言って左腰あたりのレバーを引く。
アカボズが駆る
そこから生まれる、反時計周りの回転運動。
その回転をきっかけに、右足を伸ばすへーゲイル。
その足は、カントムの左腰あたりにヒット。
――ただ距離を開ける為ではなく、相手の態勢、角度を崩す一撃。
「ちっ!」
コムロの舌打ち。
体軸を立て直している余裕はない。斜め後方へと飛ぶカントム。
敵の追撃を予想したカントムは、青く光るア・プリオリ・ブレードを眼前に「置く」ように配置し、敵の弁証剣のコースを塞ぐ。
「あまいあまい!」
ヘーゲイルは短く断続的にスラスターを噴射し、左右ジグザグ機動し相手を幻惑。弁証剣が通過する体積が一番小さくなる「突き」を選択。カントムの右脇腹付近を狙ってくる。
カントムの左半身側が狙われれば、ア・プリオリ・ブレードを押し出すようにして敵の突き剣に当て、押し弾くことができる。しかし、回転で露出しつつある「右」脇腹付近への突き攻撃が迫る。
カントムはブレードを持った、やや延ばした右腕を、急速に折りたたみながら後ろへと引く。フィギュアスケート選手の旋回初動と同様に、その反動を使い、反時計回りの旋回速度を上げつつ、かろうじてア・プリオリ・ブレードを、敵の突き剣に背中越しに当て、敵の剣先をそらす。
しゅごっ!
三角柱の剣がカントムの脇腹後方をかすめる――が、貫通はしない。
カントムはそのまま方向を転じる。スラスター全開で「前方」へと飛ぶ。
「やはりそうくるか!」
予期していたように、後背から追撃に入ろうとするヘーゲイル。
そこに、フロンデイア側の量産機、ケンリー隊からの牽制攻撃。カントムとヘーゲイルとの間に空いた僅かな空間へと向けて、待ち駒のように放たれたもの。
「うおっと」
アカボズには大して焦った様子もない。ヘーゲイルに軽く制動をかけ、ケンリー隊の砲撃をやり過ごす。
虚空を遠ざかり、消えていく、ケンリー隊の砲撃。
仲間の貴重な時間稼ぎに助けられ、からくも安全距離を取ることの出来たカントム。
「……格闘慣れした奴だ!」
冷や汗をかきながら、コムロが言う。
「カントム先生! 遠距離ベースにシフトです!」
『承知した』
カントムは右手のア・プリオリ・ブレードを「射撃用」に変形させる。
「ハッハー! 格闘戦は
赤髪の青年は愛機を
――短いスラスター噴射で、左右方向だけでなく上下方向にも軌道を小刻みに変え、進路を読ませづらくするヘーゲイル。
(思考力だけではだめなのか!?)
コムロは衝撃を受けていた。
――
思考に応じて性質を変える「ニョイニウム」の本質があるからだ。
しかし、赤紫色をした敵の
現に、一合目の力比べはカントムに優があった。
――ニョイニウムへ投じる思考で、負けているわけではなさそうだ。
おそらく敵は、「エネルギーの総量」ではなく、「一定以上のエネルギーをどう動きに使うか」という視点で、練りを続けてきたように、コムロには思われた。
(そういう……やり方もあるのか……)
状況も半ば忘れ、得心するコムロ。
小刻みにステップをしかけるヘーゲイルには、ライフルの照準が合わせられない。何発か撃つが……
「だから! 当たんねえって!」
頬が紅に染まる、青年アカボズ。
双方の距離が、再び縮まる――
「闘争によって高みに
赤髪の男は、口の右端に犬歯を光らせながら、躍動感溢れる動きでヘーゲイルと共に進む。
――対立する主張をぶつけ、より高みの概念へと到達する。
かつてのヒューマン哲学者、ヘーゲルが述べた「アウフヘーベン」の一つの形が、その言葉にはあった。
――
再び接近戦となった、へーゲイルとカントムの2者。
スペックで勝ると思しきカントムだが、ヘーゲイルの機動に翻弄され、カントム劣勢へと、一気に追い込まれていた。
◆
戦いながら、2体の
―続く―
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