24 接敵

 リバタニアは、独立宣言をしたフロンデイア連邦政府が力をつける前に、壊滅的な打撃を与える必要があった。


 リバタニアの国力は目下、人員、金、軍備ともに圧倒的。


 しかし問題は、戦いに先立って軍用化の目処が立った金属「ニョイニウム」が、されたという事実。


 辺境の星でこれを採掘するのは……フロンデイア。


「黙って搾取されていれば良いものを」

 それが、リバタニア上層部の総意と言って良かった。


 辺境の搾取対象としかみなしていなかった連中が、「真の自由」なる妄言を掲げ、「フロンデイア連邦政府」を名乗り、反旗を翻したのだ。


 「自由」 vs 「真の自由」。


 そんなお題目に真実は無い。


 しかし、このまま推移すれば、フロンデイアは、時間の経過に伴い、ニョイニウムを加速度的に所持することになるだろう。


 これまでは、本国星に居ながらにして、労せずに暮らすことが出来たのに。


 結果、リバタニアは、最大戦力での奇襲に打って出た。


 リバタニア軍は急行につぐ急行で辺境へたどり着き、宇宙基地ムー・ムラムラを電撃的に占領。これを前線基地として確保しつつ、ここを起点に周辺星域を制圧していった。


 その「制圧星域」の中には、かつてコムロやモラウ達が家族と暮らしていた惑星サンドシーも含まれていた――


 ◆


 紅い戦艦ヤンデレンに、敵の接近を知らせる警報が鳴る。


「敵軍は、凸形陣を形成しつつ接近。推定接触時間、およそ1時間後」


 オペレーターの報告が、通信機器越しにシュー・トミトクルの耳に届く。


 彼は今、「思索の網」からようやく抜け出た機動哲学先生モビル・ティーチャーデカルトンのコックピット ―料理人用厨房― に居た。


「我思う故に我あり」の言葉で有名なヒューマン哲学者、ルネ・デカルトタイプの、ニョイニウムの塊だ。


「デカルトン先生、思考は整理できたのですね」

『うむ。我が生徒搭乗者スチューロット、シューよ』


「せんぱい。状態はいかがですか?」

「良好だ、プティ」


「よかった! 2機の連携、できそうですね!」

 通信機器越しに声をかけてきた、セミロングの黒髪の後輩生徒登場者スチューロット、プティは快活に言う。


 彼女は、イギリス経験論のヒューマン哲学者、ジョン・ロックタイプの機動哲学先生モビル・ティーチャー、ロックウェルに搭乗している。


 その声からは初陣の緊張感はあまり感じられず、むしろ遠足にでも出かけるように弾んでいた。


「調子に乗るなよ?」

「了解しました!」


 2機は、いつでも発進出来る態勢で、その時を待つ。


「良いか、2人共。出撃したら雑魚には構わず、敵の主力を探し出して、これを叩け。戦線の構築と維持は、こちらの仕事だからな」

 ブリッジの指揮シートに座ったサン・キューイチが指示する。流石に戦闘開始まで至近だ。その右手には、乳酸菌飲料のパックは握られていない。


「承知しました、閣下」

「了解です!」


 紅い艦の中に響くは、機関の出力アップに伴う加速時の微弱振動。シューの心拍鼓動とシンクロし、シューの緊張を覆い隠す。


(……さて、あの機動哲学先生モビル・ティーチャーを見つけられるか……?)


 デカルトンも「悪意のある悪霊」等を思索に持ちだして、無限ループ状態に入っていたが、ようやく復活した。


 ――あの敵。

 

 「全てを疑う」ヒュームリオンでも、倒せなかった相手。


 あれを倒せる機動哲学先生モビル・ティーチャーは現れないだろう。


 ――この私とプティとのコンビを除いて。


 シュー・トミトクルは、はやる気持ちを抑えるように、また、脳へのエネルギー補給の為に、コックピット隅のお菓子ケースからチョコビスケットを一つ取り出し、一口でくわえた。

 

 ◆



 敵の首都星テーラコヤへ向けて進軍するリバタニア軍は、各地の小規模な抵抗を爆砕しつつ集結しつつある。


 数に劣るフロンデイア軍は、その集結前の一部の敵集団――敵の右翼――へと殺到し、これを各個撃破せんと目論んだ。


 しかし、リバタニア軍はこれに応じて素早く右翼を引き、逆に左翼を突出させて、横形陣を時計回りに旋回させる格好となった。


 右斜め方向からの遠距離砲火に少しずつ穴を開けられつつあるフロンデイア軍は、右30度転進しながら前進。敵右翼と本体との結節点へと攻撃を集中し、そこを突き崩して後背に抜ける構えだ。


 双方の距離が縮まる。


「よし、カントム、発進だ! 敵正面を突破してくれ!」

 フロンデイア軍所属の戦艦、ハコビ・タクナイの艦長であるキモイキモイの指示。


「行ってきます!」

 コムロの気合いの掛け声と共に、カントムが発進する。


 ドシュウウウウウウウ!


 ハコビ・タクナイ下部の発進ゲートが反動でブルブルと揺れる。スラスターの軌跡が遠ざかる。


「……行ってらっしゃい」


 ブリッジ下層に居る通信士、モラウ・ボウが、幼馴染の少年にそう声をかけ、その手のニョイ・ボウを握る。


 ニョイ・ボウのニョイニウムは、モラウの思考に反応し、ブジ二ー! ブジニー! と音を発した。


 ―続く―

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