19 決着

 ――さなかった。


『待て。我が生徒搭乗者スチューロット、アガイペーよ』

 機動哲学先生モビル・ティーチャー「ロールズ・ロイズ」が、自らのコックピットに搭乗した者 ―神の愛と、大地の神― に語りかける。


『汝は、正義と善について発言したが、どちらが優先される?』

 と、ロールズ・ロイズ先生。


それは……正です ―正の善に対する優先― 、先生」

 「しまった……」といった顔をしながら、コックピットのアガイペーが答える。


 ――かつてのヒューマン哲学者、ジョン・ロールズが語った理論だ。


 ◇


ロールズの配分的正義論まぁ、小難しいことは、財を無主物のように言い出すよね扱っている点に問題がある要は「もう誰かのモノでしょ!」


原初状態 無知のベールが にいるヒューマン ○バQ状態 「格差原理」 小難しい公式 を採用するとは限らない。そうであろう?判断人それぞれ 我が生徒搭乗者スチューロット、エロースムッシュ・村々ソンソンよ』


 機動哲学先生モビル・ティーチャー「ノスタルジーク」も、自らの生徒搭乗者スチューロットに語りかける。


「え、ええ……そうですね……」

 鼻下のヒゲをつまみながら、機動哲学先生同士の議論に若干ムラムラする、エロースムッシュ・村々ソンソン


 ――ノスタルジークは、かつてのヒューマン哲学者、ロバート・ノージックをベースにした機体であった。


 ◇


福祉の観点からロールズはここを重視は、才能に恵まれたヒューマンは、不遇な立場にあるヒューマンに便益を分け与えるべきであろうくれ! 俺に! 才能を!

 と、ロールズベースの機動哲学先生「ロールズ・ロイズ」が反論する。


 ◇


むしろ、共同体の他者こそが ―俺が俺がの「我」をおさえ― を作り上げてくれている。だからこそ、成果を他者と分け合うのだ ―おかげおかげの「下」で生きよ― 

『また、ロールズの理論ですら、ではなく、一つのに過ぎないではないか。そうだろう? 我が生徒搭乗者スチューロット、タルタロ・スフィーリアよ』


 機動哲学先生モビル・ティーチャー「マイケノレ・サンデノレ」も、自らの生徒搭乗者スチューロットに語りかける。


「まぁ……そうにゃん?」

 さらりと流す、スフィーリア女史。


 ――「正義」と「善」というキーワードを、思わず使ってしまった生徒搭乗者スチューロットアガイペーの失言 ―言葉の不可逆性― 


 3体の機動哲学先生モビル・ティーチャーは、それぞれのベースとなったヒューマン哲学者の思考に基づき、議論を始めてしまった。


 ◆


「どういうことだ?」

 カントムのコックピットでは、コムロ・テツ少年が困惑していた。


『議論モードに入っているのだろう』

 と、カントム先生の分析。


 ――敵の3体は、このまま半包囲戦法を続けていれば、明らかに優勢に立てたはずなのだ。

 マイケノレ隊の時とは異なり、ニョイニウムの出力スチューロットが注入した思考量に、圧倒的な差があるわけではない。

 それならば、数で押せる事になる。


 しかし――


「コムロ! 各個撃破だ! 敵が力を溜める前に」

 通信機を経由して、戦艦ハコビ・タクナイの艦長キモイキモイからの指示が来た。


(そうだ! 敵機動哲学先生モビル・ティーチャーのニョイニウムが、思考で強くなっているかもしれない! その前に倒さないと!)

 コムロは素早く状況を理解。カントムのフットペダルを踏み込む。


 ダッシュウウウウ! ―脱臭― 


 狙いは敵の――左翼から!


 ◆


 敵の3機の機動哲学先生モビル・ティーチャーは、完全に議論モードに入っていた。



最大多数の最大幸福ではない正義 ―功利主義とかいう― が、存在しても良いのではないか ―小難しい話― 

『しかし、福祉の分配は個人の自由の侵害なしには日本語で実現できない。おk個人の自由こそ尊重すべきであり、課税は強制労働だシゲキテキ


 ガチャガチャ! ―操舵レバー音― 

「……お、おい……?」


参加と脱退が可能な ―そんなことより― ユートピアとして ―野球しない?― 最小国家を考えるべき ―野球。広島優勝したし― だ。多元的なのが望ましい ―びっくりするほどユートピア― 

負荷無き自己を前提とするのが ―そろそろ小難しい話も― 問題なのであって、現実には負荷があるのだ。 ―終わります― 位置ある自己を前提として ―あとちょっとの辛抱― 考えるべきだ』


 フミフミフミ! ―フットペダル音― 

「……あ、あの……?」


 混乱する、3人の生徒搭乗者スチューロット達。 


 ――生徒搭乗者スチューロットの視点では、時間の空費――


 シュドッ!等速直線なら シュドッ!断続スラスター シュドッ!エアコンは シュドッ!付けっぱなしが吉


 そこに突入してくる、カントム


「先生方! 敵が来たぞ!」

 ロールズ・ロイズ ―高級車?― を駆る敵のリーダー格、アガイペーが、失言の汚名挽回 ―挽回してどうすんだ― とばかりに、注意喚起する。


 ……


 ……



 ア・プリオリ・ブレードの蒼き一閃! ―人格の尊重から生じる自由主義― 


 プニョンプニョォォォォーン! ―バッサリバッサリ― 



ぐああおおおお! ―ユートピアがふるいにかけられた― 

俺の自由が!エロースムッシュ・村々の言


 機動哲学先生モビル・ティーチャー「ノスタルジーク」は、「やられた」という概念を理解していた。


 ドゴワアアアアアアアア! 爆発―爆発―爆発―爆散 


「……ひとつ!」

 コムロの、お約束のカウントが入る。



よくもにゃん!スフィーリアの言


 ドドドチュウウウ!  単一機体での発射 

 マイケノレ・サンデノレのジャスティス・ライフル。


 ジュオッ! ―前方スラスター―  スワンッ! ―旋回しつつ下へ軌道変更―  モニュ! モニュ! ―発砲―発砲― 

 カントムは急減速してライフルの弾丸を回避しつつ上下反転。続け様、ブレードをライフルに変形させ2連射。


 ドワアアアアアアアアンゴ! 爆発―爆発―爆発―爆散 

  

ぐああああああ! ―自分が手段にされてしまった― 

ダメにゃん!タルタロ・スフィーリアの言


 機動哲学先生モビル・ティーチャー「マイケノレ・サンデノレ」が、「やられた」という概念を理解しているのは既に分かっている。


「……ふたつ!」

 コムロの、お約束のカウントが入る。



「貴様! よくも村村ソンソンスフィーリアを!アガイペーの言


 シュッドオオオオオオオオオオオ! ―ロールズ・ロイズの突進― 


 クィインッ・ボオオオオオオオオオオオ! カントム、再度軌道変更の後スラスター 


 ――


 ヴヴヴオオオッ ―「青」から「紫」へー 


 スサッ! ―軸ズラし回避ー 


 ニュウウウイイイイイイイイン! ―ザックリ刺さるブレード、ってか入院ー 


 互いにスラスター全開で急接近したロールズ・ロイズとカントム。


 カントムは、その手の青き ―理性色ー ア・プリオリ・ライフルを紫色の ―経験色ー ア・ポステリオリ・ブレードに変形させて突入。敵と交えるその直前に少しの側面スラスター。右にスピンしつつ体軸をズラして敵の攻撃をかいくぐりつつ、ブレードを敵に突き刺した。


どわああああああ! ―反照的均衡で公式にあてはめられなかった― 


 機動哲学先生モビル・ティーチャー「ロールズ・ロイズ」も、当然、「やられた」という概念を理解していた。


 ゴハアアアアアアアアアン! 小爆発―中爆発―食欲―爆散― 


「……たくさん!」

 コムロの、お約束のカウントが入る。


 ――3つ以降は、カウントする気がないようだ。


 ◆


わずか ―わずか?― スプーン8杯で、驚きの白さに!」


「おおお! すげぇキレイじゃん!」


 母艦「ジャスティスン」では、洗濯が行われていた。


 「ロールズ・ロイズ」「ノスタルジーク」「マイケノレ・サンデノレ」の3機が、母艦の後退行動中に戦功を狙い発進してから、既に2日が経過していた。


 彼らは知らずにいた。


 ――索敵圏外へと猪突したその3機が、ことごとく、敵の1機の機動哲学先生モビル・ティーチャーによって、敗退したことを。


 ―続く―

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