18 正義の三連星
敵の
無知のヴェールを剥ぎ取って。
カントムのア・プリオリ・ブレードを漆黒の盾で受け止めた敵の
それぞれ、同時に襲いかかってきた。
「まずい! やられる!」
コムロは慌てて後退しようとするが、それは遅きに失していた。
今後退すれば、正面で対峙している
――三方から挟撃を喰らう結果になる。
しかも、
つまり、出力差がそれほど無い事が、わかっている。
『うむ。危険という概念』
若干小難しい言葉遣いをしながら、カントム先生の動作が、自動に切り替わる。
カントムはブレードを持つ右手を脱力させ、敵の「漆黒の盾」との力比べを放棄。
後退ではなく、急速前進で、敵
そして、左肩での体当たり。右腕をくんっと引いた時計回りの回転力を利用して左肩を、敵
敵のB、Cは、描く弧の半径を小さくしつつ、カントムの左と下から更に接近するが――
B、Cがそのまま突撃しては、味方のAを巻き込むことになる。
それを感じて躊躇したのか、B、Cは微妙に減速しつつ、そのままのコースで突っ込んでくる。
カントムは左腕で、
減速しつつカントム左側から接近した
――同士討ち――
カントムは前方へとブーストをかけながら、そのまま右斜上へと回りこむ。時計回り旋回する
下から迫る
カントムはそのまま一直線に加速して、敵の3体から距離を取る。
「あ、ぶなかった……」
コムロの背中は、瞬間的に吹き出た冷や汗でびっしょりになるが、
夜中の立体TV通販でミックスボイスの男が発した「ビックリして出た汗も、急速乾燥! さらに! これとこれもお付けして……2万9800フィロソ!」という広告は、誇張ではなかった。
『
カントム先生が、常識的な範囲で物を言う。
「先生、ありがとう」
コムロは気を取り直して、カントムを反転させ、3機の敵に対して身構えた。
◆
「敵の
戦況をスクリーンで確認していた戦艦ハコビ・タクナイのブリッジで、艦長キモイキモイがそう分析した。
――つまり、スペック差で圧倒出来ない状況にある、ということになる。
「ア〜ウって何です!?」
そう聞くモラウ・ボウのイライラに感応して、その手のニョイ・ボウがビリビリビリ! と音を発した。イライラ・ボウ。
「複数の敵を区別するための、システムですね?」
副官のビヨンド・ザ・ソソソゴーン・ソソソゴーン・ソソソゴーンが会話に混じる。
「そうだ。人は、区別する必要が生じた時に、言葉を生みだす。それが言語のシステムだ」
艦長は、うなずいて応じた。
ドーン!
ドーン!
皆の予想通り、モラウは激高した。
「また始まった!
ビヨンド・ザ・ソソソゴーン・ソソソゴーン・ソソソゴーンが、解説を試みる。
「モラウさん。かつて、哲学者に、ソシュールという人がいまして」
「ソシュール?」
当然ながら知らないようだ。首をかしげるモラウ・ボウ。
―ソシュールは、かつてのスイスに居たヒューマン哲学者であり、言語学に革命を起こした人物として知られている。
彼は、その新理論を学生たちに講義した後、そのまま病死してしまった。
講義を受けた学生たちが協力して一冊の本にまとめたもの。それが『一般言語学講義』であった。
「例えば、姉と妹の区別ですが、かつてのとある国では、どちらもsisterと呼んでいたんです」
と説明をする、ビヨンド・ザ・ソソソゴーン・ソソソゴーン・ソソソゴーン。
「姉と妹とを区別する必要がある文化と、その必要がない文化とがあるってことだ」
艦長のキモイキモイが助け舟を出す。
―― モラウ・ボウの激高充填率: 20%
「だから『言語は区別のシステム』なんです、モラウさん。ソシュール以前は、言語とは、対象に貼り付けられた『ラベル』だと考えられていましたが――」
「ラベル!? また新しい言葉が出た! キモイキモイ!」
激高するモラウ・ボウ。
「呼び捨てにするな!」
激高するキモイキモイ艦長。
「……艦長のことじゃ、ありませんよ。きっと……」
渋面の、ビヨンド・ザ・ソソソゴーン・ソソソゴーン・ソソソゴーン。
◆
もつれ合った3体の
「奇襲は失敗だったかにゃん?」
機動哲学先生
それに搭乗した
「敵との出力差もそれほど無いようだ。正攻法でも数で勝てるだろう」
機動哲学先生
それに搭乗した
「敵の突撃を受けた機体は、少し後退して引き付ける。その間に包囲だ」
3機のリーダー格と思しき機動哲学先生
それに搭乗した
――区別は、一致するとは限らない。
――区別は、物事をわかりやすくするとも限らない。
「行くぞ。正義と、善の為に」
アガイペーの号令の元、3機の
―続く―
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