14 窮地


 起動哲学先生モビル・ティーチャー同士が争っている中、それぞれのコックピットに座った生徒搭乗者  中の人  同士も、争いになっていた。


「ヒュームタイプの機動哲学先生モビル・ティーチャーか!」

 コムロは、操縦桿をガチャガチャする。


 プポポポッ!


 繰り出されるア・プリオリ・ブレード


「そちらはカントタイプだろう! 議論できまい!」

 シューは、シュークリームを食べながら、操縦桿を操作する。


 ン”ーッ! ン”ーッ!


 ヒュームリオンの右手のエネルギーボールおまんじゅうが光る。


「ヒュームの話は、救いが無いんだよ!」

 コムロはフットペダルをフミフミする。


 ドシュウウウウウウ!  力押し  


「救いだと! 真実より大事だとでもいうのか!」

 シューは、シュークリームを食べ続ける。操縦桿を紙でふく。 


 スサッ!回避


「真実が大事なのか!? 相手を幸せにしない真実に、何の意味がある!」

 そう叫ぶ、コムロ。


 ――この問いに対する、唯一無二の答えは、存在しないのかもしれない。


 機動哲学先生であるヒュームリオンが、割って入った。

『真実に、目を背けてはいけない。不都合な真実であっても』


 ヒュームリオンが至近距離から放ったカイギ懐疑ボールと、カントムのア・プリオリ・ブレードとがぶつかる。

 

 通常、剣とおまんじゅうであれば、おまんじゅうが真っ二つにされるところだが――


 おまんじゅうに押されるア・プリオリ・ブレード。


 そして、ブレードが、カントムごと、後ろに弾き飛ばされる。


「くっ、っそおおお!」

 コムロはフットペダルの踏みを一度緩め、一気に底までベタ踏みにした。


 シュドドドドオオドオオ!


 カントムはギアが変わったかのように力強く背面スラスターを噴射して減速。


 そこに迫る、ヒュームリオン。


 コムロは、操縦桿上部のスイッチを押す。ブレードがライフルに切り替わり、――乱射――牽制。


 ……しかし、ヒュームリオンの前進の勢いは止まらない。


 ズオッ!


 ヒュームリオンが、至近距離まで接近。


「ちぃっ!」

 コムロはなおもフットペダルを踏み込みつつ、操縦桿を操作。右斜め上後方へとカントムを導く。


 左斜め下前方へと吹き出されたスラスター噴射をくらっても、ヒュームリオンはひるまない。


 ◆


「まずい! 援護射撃!」

 戦艦ハコビ・タクナイのキモイキモイ艦長の指示の下、後部砲塔ミサイル4門を水平発射。


「コムロ君! 援護行ったぞ! およそ10秒後!」

「はい!」

 ミサイルの到達にタイミングを合わせて、カントムも左右に小刻みに機体を振りながら後退。距離を取る。


「ええい! ちょこまかと!」

 シュー・トミトクルのそのいらだちは、敵の母艦「ハコビ・タクナイ」へと向けられた。


「ヒュームリオン先生! 敵の戦艦を先に沈めましょう!」

『なぜだ? 我が生徒搭乗者スチューロットよ』

「戦艦の砲撃援護が無くなれば、集中して敵の機動哲学先生モビル・ティーチャーを叩けるからです!」

『その因果関係は、真とは言い切れない』

「ああもう! ある程度の確からしさがあれば、充分でしょ!」

『実生活上では、そういう側面もあるな』

「その側面でいいから! 投げて! 懐疑ボールを!」


 ヒュームリオンの懐疑的思考は、幸運にも、戦艦ハコビ・タクナイに、対応の時間を与えた。


「艦長! 敵がそちらを狙っています! 凄まじい威力のやつです!」

 通信機越しにコムロがそう伝える。


「なに!? ハコビ・タクナイ、全速前進しつつ、左後方からの攻撃に対処! 弾幕も集中させろ! 後部ブロックにいる乗組員は、第3層まで退避! 至急だ!」

 鋭い指示がキモイキモイから飛ぶ。


 艦長キモイキモイは、戦艦を反転させる機を失っていた。


 距離がある程度開くその前に反転した場合、旋回運動の途中を遠距離射撃で狙われる恐れがある。


 それを避けるには、後方の敵を一旦振りきる必要がある。


 敵の機動哲学先生モビル・ティーチャーがデカルトンであれば、カントムで敵を遠方へ押し込みつつ、戦艦ハコビ・タクナイは距離を取ることが出来ただろう。


 しかし、シュー・トミトクルの新たな機動哲学先生モビル・ティーチャーヒュームリオンの懐疑的パワーには、カントムですら押されていた。距離を取ることが出来ない。


「いけ!」

 勢い良く、操縦桿のスイッチを押すシュー・トミトクル。


 ン”ン”ン”ン”ン”ーッ! ン”ン”ン”ーッ! 


「カントム先生! 撃ち落と・・」

 コムロの反応は間に合わない!



 ……



「きたぞ! 総員! 衝撃にそなえて!」  キモイキモイが総員に告げた  


 ウウウウウウウウウウニョイ・ボウがモラウの恐怖に感応


 ……



 ハコビ・タクナイの後部に集中して到来する、おまんじゅうのようなカイギ懐疑ボール。


ズゴゴゴ爆発――ゴゴゴゴ爆発――ドオオオ爆発――バアアア爆発――アアン!爆発


「きゃあああ!」モラウの悲鳴


「後部に被弾!」 オペレータの報告 


「被弾箇所の隔壁閉鎖! 消化活動急げ!」  艦長の指示  


「すぐ次が来るぞ! 耐えろ!」  艦長の指示  

 

ドドドア 爆発―― バアアン! 爆発 


「後部、更に被弾!」 オペレータの報告 


「一発、外れました!」 オペレータの報告 


「被弾箇所はッ? 何て正確な攻撃だ!」 艦長の指示と苛立ち 


「左舷後方エンジン近くに被弾!」 オペレータの報告 


「被弾付近の動力を切れ!」 艦長の指示 


「推力20%ダウン!」 機関室からの報告 


「左右のバランスを取りつつ、最大戦速!」  艦長の指示  


 与えられた状況の中で、最善の行動を取ったかに見える、戦艦ハコビ・タクナイと、それを指揮する艦長キモイキモイ。


 しかし、状況は逼迫していた。


 ――敵の遠距離攻撃の破壊力。そして、


 ――艦の推力ダウン。


(……次が来たらマズイぞ。防げるか?)

 艦長であるキモイキモイは、思った事を全て口に出せるわけではない。士気に影響する。


 キモイキモイは、言葉に出してはこう言った。

「大丈夫だ! 被弾前に、弾幕で撃ち落とせ!」


 ――


 ヒュームリオンのコックピット内のシュー・トミトクルは、手応えを感じていた。


「敵艦の足を止める! ヒュームリオン先生! 次の懐疑を!」

『次? 各事象の間に因果関……』

「主観的な因果関係で良いから! 次を!」

『ふむ。主観、ということであれば、我が意に反しない』


 ――カントムの生徒操縦者スチューロットの反応も、間に合わない事は、先の攻撃で実証済みだ。


 ――いける!


 そう力を込めて、シュー・トミトクルは、操縦桿のスイッチを再度押下した。

「これが、絶望だ!」


 ン”ン”ン”ン”ン”ーッ!


 ―続く―

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