13 先見的 vs 経験論
艦長キモイキモイ達は、会議棟に案内された。
ブラインドから日の光が差し込む広いオフィス。ドアから入って左側には大型スクリーン。
運ばれたコーヒーで糖分を補いつつ、基地側の指揮官と情報の共有を図る。
・フロンデイア軍は劣勢である。
・ニョイニウムの含有量をセーブした量産機で、数を確保する。
この2点が、双方の共通認識となった。
特に、乏しい資源の関係上、ニョイニウムの使用を攻撃関連パーツへと集中投下した「
ただし、敵の攻撃を受けたニョイニウム採掘星を放棄した関係上、配備できる「
(そんな配備でだいじょうぶか……)
そう思わざるを得ない、キモイキモイ艦長であった。
◆
コンテナ星の群れが隠蔽された状態で点在するポッケスタップ宙域から発進した戦艦ハコビ・タクナイ。
これを待ち受けていたのは、紅い戦艦「ヤンデレン」だった。
「予想通りだな」
指揮シートに座ったサン・キューイチが言う。
乳酸菌飲料も吸う。
「そうですね」
と、シュー・トミトクル。
コーラを飲む。
通常の小惑星に偽装された「コンテナ星」を特定するのは難しい。
だが、敵の行動を「線」で読めば、その宙域から出てくるコースを、ある程度予想出来た。
「それでは、早速行って参ります」
と、おにぎり型敬礼を行う、シュー・トミトクル。
「おう。新しい
と、おにぎり型敬礼で返す、サン・キューイチ。
◆
デカルトンではなく、ヒュームリオンに乗り、戦艦ハコビ・タクナイの左舷方向から迫る、シュー・トミトクル。
フィーーーヨン! フィーーーヨン!
「来たな」
キモイキモイ艦長は、この襲撃を予期していた。
可能な限りの短い時間で、カントムを出撃させる。
シュドドドドドド!
スラスターを噴射して、艦の左斜め後方へと進むカントム。
ハコビ・タクナイはそのまま前進。敵からの距離を取る。
進撃する敵とハコビ・タクナイとの間にカントムが入り、「壁」となる配置だ。
――
――
「ヒュームリオン先生、遠距離攻撃できますか?」
問う
『デカルトとは違うのだよ。デカルトとは』
お約束のセリフを言いながら、ヒュームリオンはボールを虚空に投げつける。
――デカルトとヒュームは別人なのは自明だ。
ヒュームリオンの遠距離武装「
「銃」という概念も
「剣」という概念も
懐疑、否定、拒否したヒュームリオン。
純粋に、固めたエネルギーボールを放出するスタイルだった。
ニョイニウムとエネルギーとの潤沢な供給が可能な、リバタニア軍所属であるからこそ運用できる、高コスト機体であった。
コックピットの中で、「ぐううう」と苦しむシュー・トミトクル。
ヒュームリオンは、思考エネルギーの消耗が激しい機体としても知られている。
脳の栄養である「糖分」が足りない。
ヒュームリオンのコックピット左側。「おやつホルダー」には、大量のおやつが入っている。
開き戸をパカっと下ろし、スナックタイプのおやつを食べながら操縦桿を握る、シュー。
オギョーギッ!
オギョーギッ!
鳴るニョイニウム。
ベタベタになる、操縦桿。
カフェでたまたま隣り合わせたおっさんの咳払いのような、断続的な音で飛ぶ、おまんじゅうのようなエネルギーボール。
おまんじゅうが、飛ぶカントムの右頬のあたりをかすめる。
「ぐわうわうわう!」
かすめた振動で、カントムが大揺れに揺れる。
凄いエネルギーの塊だ。
「こんなの、当たったらたったらどうなってしまうんだ・・・」
コムロが焦る。
『独断のまどろみから目覚めそうだな』
カントム先生が冷静に回答。
「そんなんじゃすまないですよ! 先生!」
とコムロ。
カントム先生の回答で、コムロは気づいた。
敵のモビル・ティーチャーが、
かつてのヒューマン哲学者「デイヴィッド・ヒューム」ベースの機体であることを。
――イマヌエル・カントは、カントムが搭載するAIのベースとなった、古のヒューマン哲学者だ。
カントは、「イギリス経験論の最終兵器」と呼ばれるヒューマン哲学者、ヒュームの哲学に接することにより、「独断のまどろみから目覚めた」と述懐した。
そしてカントは、10年がかりで、名著「純粋理性批判」を執筆することになる……。
ある意味で、ヒュームリオンとカントムとは、ベースとなった哲学者における「師弟」に近い関係にあった。
当然ながら、
カントムも、ア・プリオリ・ライフルをモニュモニュと乱射するが、ヒュームリオンに、スサッと
カントムの乱射。
ヒュームリオンの回避。
互いの応酬。
そして、おまんじゅうのようなエネルギーボールと、モニュモニュとしたライフルの応酬。
互いの距離が詰まる。
「カントム先生! ライフルをブレードに変えて攻撃!」叫ぶコムロ。
『イギリス経験論ベースの
「わかってきたじゃないですか! 先生!」
コムロとの息が合ったカントムが、剣の形にしたア・プリオリ・ブレードを振る。
「ヒュームリオン先生! 疑って!」
『それこそが、我』
「ですよね!」
シュー・トミトクルもまた、ヒュームの癖を理解していた。
ヒュームリオンが左腕の外側に、盾を出現させる。
プポポポポ!
ギュムリ。
カントムが振ったア・プリオリ・ブレードは、ヒュームリオンの盾で受け止められた。
そして、盾を冷静に後ろに引く、ヒュームリオン。
まるでコマ送りのように、数々の段階を経ながら、徐々に無効化されるカントムの攻撃。
――因果を、沢山の事象へと分解するかのごとく。
そして、カントムのブレードが弾き返される。
『分割すれば、それぞれ、同じ事象とは限らない』
ヒュームリオンが言う。
『悟性をどう考えるかだ』
『ア・プリオリな綜合判断だと? 全ては経験から生まれるのだ。因果律さえも』
ヒュームリオンは、冷静に切り返した。
◆
ドーン!
ドーン!
ドーン!
「味方も敵も! 何言ってんの!」
戦艦『ハコビ・タクナイ』のブリッジで、怒りを沸騰させるモラウ・ボウ。
コンテナ星で入った温泉は、沸騰したお湯ではなく、適温だった。
ニョイーーーーン
ニョイーーーーン
ニョイーーーーン
ドーン!
ドーン!
ニョイーーーーン
ニョイーーーーン
ドーン!
ドーン!
「モラウ君。要は、パラパラ漫画と同じだという話だ」
艦長キモイキモイが、説明を試みる。
「また! 何がパラパラ漫画なのよ!」
モラウの激高。
ドーン!
ドーン!
「パラパラ漫画って、動いて見えるよな?」
諭す、キモイキモイ。
「まあ、動いてますよね」
ニョイーーーーン
「でも、一枚一枚の紙へと分割して考えると、それぞれ、違う紙なわけだよ」
「そんなの、当たり前ですよね?」
ニョイーーーーン
「そう。で、この世もパラパラ漫画なんじゃないかと。ア・プリオリブレードも、振り下ろしモーションを分割してみると、連続した同じブレードではなく、別々の実体である、パラパラ漫画かもしれない」
「なにそれ! 妄想しすぎでしょ!」
ドーン!
ドーン!
ドーン!
ドーン!
◆
カントムはア・プリオリ・ブレードを振る。
近距離状態で、高出力スラスターで素早くかわす、ヒュームリオン。
カントムは、さらにブレードを振る。少し間が開いたらライフル射撃。
ヒュームリオンは、カントムの攻撃をかわしつつ、盾で受け止めつつ、近距離から、禍々しいほどの破壊力を秘めた
カントムは、言葉に力を込めて、ア・プリオリブレードを振り下ろした。
―続く―
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