04 迫り来る、「共同体」。戦いは数?
敵軍では、撤退したルネ・デカルトタイプの
「酷い目にあった!」
デカルトンの
「整備班! デカルトンの修理に、どれくらいかかる!?」
「ハッ! 片腕が破損しておりますので、10時間程は、必要かと」
「自分のペースでいいから急げ! 大雑把でいいので正しく正確に! すぐ再出撃するからな! あと、ブリッジに通信を繋いでくれ!」
「ハッ!」
整備班のクルーが、シューの指示にやや混乱しつつ、コンソールを操作し、通信ボタンを押した。
フオン!
立体テレビに明かりが灯り、立体映像が表示された。
「やられたらしいな」
シュー・トミトクルの上官であり、この艦の艦長でも有る、サン・キューイチであった。泰然としている。
「申し訳ありません。デカルトンとの意思疎通に、やや手こずってしまい」
シューは頭を下げた。
「デカルトンは小難しいからな。しかし、ツボに入った時の威力は大きい。一休みして、態勢を立て直すが良い」
上官であるサン・キューイチはあまり怒っているようには見えない。
「ありがたきお言葉! ですが、修理が完了次第、すぐにでも再出撃したいと愚考致します」
シューは、丁寧な言葉で自己の意思を表明した。
「
サン・キューイチはそう言って、近場の部下を捕まえて、指示を出した。
「おい、そこの。ブレイン・パワー・チャージャーの手配をしておけ。トミトクルが、直ぐに使うだろうからな!」
「ハッ!」
捕まえられた部下の男に敬礼をして、早速の作業を行いに、去っていく。
「ありがとうございます!」
シュー・トミトクルは、去っていく男に軽く会釈をした後、上官であるサン・キューイチに向き直り、居住まいを正して敬礼をした。
背筋を伸ばして直立の姿勢を取り、そこから両肘を上げて二の腕が水平になるようにし、肘から指先までを左右のこめかみへと伸ばすことで、両腕で三角形のおにぎりの形を作る。
「うむ」
サン・キューイチも同様に、両腕で三角形のおにぎりを作って敬礼した。
両腕を下ろしたサン・キューイチは、思い出したかのように語をついだ。
「――そうだ。我が軍の別隊が、敵を急襲する手はずになっている。デカルトンの修理は、合流には間に合わないかもしれないな」
「マイケノレですか?」
そう予想する、シュー。
「そうだ。『戦いを支配するのは数』という主義で団結した部隊だ」
と説明する、サン・キューイチ。
――マイケノレ・サンデノレは、かつてのヒューマン哲学者「マイケル・サンデル」の名を冠する
このモビル・ティーチャーに搭乗する
一般人が相互に関連して「共同体」を作るがごとく、数に物を言わせる事を重視した編成思想なのだ。
「確かに前世代では、戦いを決める
シュー・トミトクルは、アゴを右手でつまみながらそう苦言を呈した。
「貴様の言うこともわかる。だが、考え方は様々だ。経験によって、新しい考え方を学ぶこともあろう?」
上官であるサン・キューイチは諭すように、シューに対して言った。
「はっ! そのとおりであります」
背筋を伸ばす、シュー・トミトクル。
「まぁ……生き残ることができたら、ではあるがな」
立体映像のサン・キューイチは、不敵にニヤリと笑った。
◆
幾多の星が散りばめられた宇宙空間を、一隻の戦艦が進む。
かつてのヒューマン哲学者「イマヌエル・カント」をベースとする
『アルファがベータをカッパらったらイプシロンした。なぜだろう?』
カントムからの問いが、そのコックピットに座っているコムロ・テツ少年に向けて発せられたのだ。
「カントム先生。それ、答えはあるのか?」
コムロはそう逆質問をした。
『問いの製作者はもういない。汝なりの回答を、我に示すのだ』
「分かりましたよ。考えてみます」
コムロは苛立たしげにそう言って、思考を始めた。
―― カントムの思索エネルギー上昇曲線: y = x^2/10
「まず、α(アルファ)がβ(ベータ)をκ(カッパ)らったらε(イプシロン)したわけです」
『ふむ、問題文の解釈だな? 正しいだろう』
―― カントムの思索エネルギー上昇曲線: y = x^2/8
―― 通信傍受中のモラウ・ボウの激高充填率: 5%
「α、β、κ、ε。つまり、どれもギリシャ文字の小文字なのだから、それぞれが同様の概念を表していると考えるべきです。これを(1)とします」
『確かに、別種の概念であるという但し書きは無い。しかし、同種であるとも断定できない』
―― カントムの思索エネルギー上昇曲線: y = x^2/6
―― 通信傍受中のモラウ・ボウの激高充填率: 10%
「つまり、数式にすると α (κ) β = ε となります。 これを(2)とします」
『数式化については、概ね良いであろう』
―― カントムの思索エネルギー上昇曲線: y = x^2/4
―― 通信傍受中のモラウ・ボウの激高充填率: 15%
「式(2)の、κは、演算と見るべきでしょう。加算、減算、乗算、除算、カッパライ算」
―― 現在の株価: 15228パイサ
―― 通信傍受中のモラウ・ボウの激高充填率: 100%
「知らない演算を含めないで!」
通信用のインカムを片手で握ったモラウ・ボウが激高した。
――おそらく、「カッパライ算」の事を指し示すと思われる。
「邪魔しないでくれよ! エネルギー充填中なんだから!」とコムロ。
「分からない事言われたら、イライラするでしょ? そんな事も分からないの?」とモラウ。
「分からないよ!」とコムロ。
――コムロもイライラしたようだ。
「まぁまぁ。これも、次の戦闘に備えるためだから」
戦艦のブリッジ中央、指揮用ソファに座ったキモイキモイ艦長がなだめに入る。
キモイキモイ艦長は指揮用ソファから立ち上がり、気分転換用にと、カントムと同様に「ニョイニウム」という金属で出来た棒状物体「ニョイ・ボウ」を、モラウ・ボウに手渡した。
モラウ・ボウが、ニョイ・ボウを、イライラをこめてグッと握る。
すると、ニョイの方の棒は、「ニョイーーーーン」という音を発し、緑色に淡く光った。
その緑色の癒やし効果により、アルファ波が発生。
平たく言えばリラックス効果により、モラウの方のボウは、とりあえず大人しくなった。
コムロは思考を続ける。
「ここで、式(1)と(2)を合わせて考えると、α、β、κ、εがそれぞれ同種の概念を表すものであって、かつ、κが演算を示すものと分かりました」
『ふむ、そうすると、どうなるか?』
―― カントムの思索エネルギー上昇曲線: y = x^2/2
―― 通信傍受中のモラウ・ボウの激高充填率: 20%
ニョイーーーーン
ニョイーーーーン
―― 通信傍受中のモラウ・ボウの激高充填率: 0%
「すると、κ以外の、残ったα、β、εもまた、演算ということになります」
『大胆な推論だな』
「よって、【演算が演算を演算したら演算した】ということになります。ぶひゃひゃひゃひゃ!」
『ケケケケケ!』
―― カントムの思索エネルギー上昇曲線: y = x^5
ドーン! (モラウ・ボウの激高音)
ニョイーーーーン!
ニョイーーーーン!
ニョイーーーーン!
ドーン! (モラウ・ボウの激高音)
ニョイーーーーン!
ニョイーーーーン!
ニョイーーーーン!
ニョイーーーーン!
ニョイーーーーン!
その時、戦艦「ハコビ・タクナイ」の警報が鳴った。
「敵襲です!」と、慌てたオペレーターの声が、艦内に響く。
「どの位の規模だ?」
キモイキモイ艦長は、冷静に問いただした。
しかし――
「すさまじい数の光点が、レーダーに写っています! まるで、世界全体が攻撃してきたかのようです!」
「なん、だと!」
キモイキモイ艦長の首筋に、タラリと冷や汗が流れた。
―続く―
引用:ドラえもんの、いわゆる「ドラエ問題」
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