第8話『ちーちゃんとかれはさん』~後編~
…それは、北風がとても強い日でした。
黒い大きな車がやってきて、
きれいな細長い箱を後ろに積むと
ふもとの街へゆっくりと降りていきました。
かれはは北風にたずねました。
風はみんなに噂を届けたり、
広めたりするのがしごとだったので、
このあたりで一番の物知りでした。
「北風さん、いまの車は?」
「ああ、あれかい?あれはかそうばへ行く車だよ」
「かそうば?」
「なんだ、おまえさん何も知らないんだな。
ここはもう手を尽くしても助からない子がくるところだからな。
死んでしまったら、かそうばへ運ばれるのさ」
「え…!?」
かれはは青ざめました。
手に負えない子がくるところだという話は
ちーちゃんから聞いて知っていたものの
その意味まではよくわかっていませんでした。
「い、今運ばれていったのは誰!?」
「さあて、たしか…ちーとか呼ばれていた子だよ」
「ちー…? ちーって、まさか…ちーちゃんのこと!?
う、嘘だ!」
「嘘なもんか!せっかく教えてやったのに失礼な奴だな!」
そういって、北風はピューっと去っていきました。
「そんな…だってあんなに元気だったのに…なんで?
もっとたくさん話したいことあったのに…
またねーっていってたのに…!
もうぼくの上でダンスしてくれないの!?
ねえちーちゃん!くるくる回ってよ!
ぼくの笑い声が大好きだっていってたじゃないか!
ちーちゃんのためなら何度でも笑うよ!
カサカサ!カサカサ!って笑うから!
だから――!」
かれはは無理やり笑おうとしましたが、
出てくるのは、すっかり枯れてしまったはずの
涙ばかりでした。
「ちぃぃぃちゃぁぁぁあああああーーーーん!」
かれはは大声で泣き叫びました。
――と、その叫びが天に届いたかのように、
白い雪がちらちらと舞い降りてきました。
「かれはさぁん…?」
「…え?」
かれはは、ちーちゃんの声が
天から響いてくるように聞こえました。
「いのちはこわれないって、かれはさんが
教えてくれたでしょ?」
「やっぱり、ちーちゃんだね!?」
「うふふ、カラダは消えても、いのちはぐるぐるとめぐって
えいえんなんだもん」
「ははは、そ、そっか…うん、そうだった…
ありがとうちーちゃん! …でもどうして?」
ちーちゃんの返事はありませんでしが、
かれはは自分のカラダがすーっと軽くなるのを感じました。
「ああ…そうか、迎えにきてくれたんだね」
かれははそういって目を閉じました。
目の裏ににっこりとほほんだ
ちーちゃんの顔が浮かびました。
そうして、かれはもまた
いのちのめぐる旅に旅立っていきました。
真っ白な初雪が、かれはの上に
優しく優しく積もっていきました。
(おわり)
きしむ扉 うたがわ きしみ(詩河 軋) @kishimi
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