第7話『ちーちゃんとかれはさん』~中編~

乱暴に振るい落とされ、

しごとも行くあても失ったはっぱは、

みるみるうちに土気色つちけいろ

かわっていきました。


そこへ、赤いスカートの女の子がやってきました。

「うわぁ!すごい!たくさん落ちてるー!」


女の子は興奮した様子で、

落ちたはっぱの上を駆けたり飛んだり、

手ですくって空に放っては、

はっぱの雨を降らせたりして

ケタケタと笑っています。


放られたはっぱは、ひらひらと舞いながら

あっけにとられていました。


たった今しごとも行くあても失い、

なにもかも終わったはずの自分と遊びはじめたこの女の子が

不思議で仕方がありません。


「き、君…!」

はっぱは我慢ができなくなり、

その女の子に話しかけました。


「あら、かれはさん!こんにちは!」

はっぱはドキッとしました。


自分はもう『はっぱ』ではなく、

『かれは』になってしまったことに気づいたからです。


「ど、どうして…ぼくみたいな…

か、かれはなんかと遊んでくれるんだい?」

「うふふ、だってちーちゃん、

かれはさんだーい好きなんだもん!」


はっぱ――いいえ、かれはは、またドキッとしました。

でも、今度のはなんだか嬉しいドキッでした。


もう光をとりこむことも、エーヨーをはこぶこともできない

役立たずになったぼくをどーしてこの子は

だい好きだなんて言うんだろう?

かれはにはそれがどうしても不思議で仕方がありません。


「ぼくはもうなんのしごともできないし、

こんなみじめなカラダになってしまったのに、

どうして、君は大好きだなんていうんだい?」


すると、聞かれたちーちゃんの方が

不思議そうな顔をしていいました。


「どうしてって、かれはさんってすごくステキなんだもの!

特にその笑い声が一番ステキ!」

「笑い声?」

「うん!」と大きく頷いて、ちーちゃんはかれはの上で、

くるくる回ってダンスをはじめました。


カサカサッ!

カサカサカサッ!


「ほら! ね? 

カサカサ、カサカサって笑ってくれるでしょ!

ちーちゃんの踊りをみてたくさん喜んでくれるでしょ!

だからあたし、かれはさんだーい好きなの!」


もうカラダのどこをさがしても

水分なんかないはずのかれはの目から

ポロポロポロポロと涙がこぼれてきました。


それから、ちーちゃんとかれはは

だいの仲良しになって、晴れた日は毎日のように遊びました。


ちーちゃんがはしゃぎすぎて転んだ日は

かれはがクッションになってあげたり、

北風の強い日は、寄り添って温めあったりしました。


ちーちゃんが、丘のふもとの街からやってきたこと、

ここにやってくる子は、

みんな手に負えない子なのだという秘密を聞いてしまったこと、

でも、ここのせんせーがとても優しくて、

ふもとの街に帰りたがったちーちゃんを

いつもなぐさめてくれること、

夏には中庭の花壇いっぱいにヒマワリが咲くこと、

花壇の中できちんと咲いたヒマワリと、

種が迷子になって、花壇の外で咲いてしまったヒマワリと、

どっちも同じヒマワリだから、

どっちも大事にしなきゃいけないこと、

かれはさんはいつか

自分のカラダを地面さんのエーヨーにして、

また木の上に生まれてくること、

カラダは消えても、ぐるぐるといのちはめぐって、

えいえんなんだって、せんせーが教えてくれたこと…

とにかくふたりは、いろんなお話をたくさんしました。


「えいえんっていうのは、つまりその…

いのちはずーっと壊れないってことかなあ」

「かれはさんすごい!きっとそうよ!」


かれはは照れて、カサカサと笑いました。


そんなある日のこと、

中庭に白い服をきた大人の女性がやってきて

ちーちゃんにいいました。


「ちーちゃん、もう寒いから中に入りましょうね」

「えー、もっとかれはさんと遊びたいよー」


ちーちゃんはぶーぶー文句を言いながらも、

「またねー!かれはさーん!」と元気に挨拶をして

白い建物の中に入っていきました。


それからしばらく、ちーちゃんは中庭に姿を見せませんでした。

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