第3話
社より戻った春霖は、やっと息がつけるとでも言いたげに背伸びをして『あー』と声をあげた。
「女神さまに感謝しなくては」
あの時執りなしが無かったらと思うとゾッとする。などと、身を震わせた。お師匠さまのように怒声を飛ばしたりはしないが、巫鳥は言葉の圧力が生半可ではないのだ。時に怒鳴られるよりずーんと身に堪える。
「時雨ちゃんはセンを迎えに行くの?」
「えぇ。女神さまのお許しが出たもの。里へ連れて帰るわ」
それにしても『問題が消えた』とは、どういうことだろう?
時雨のいない間に、センは歳の問題を切り抜けたのだろうか?
時雨が考え事をしている間、春霖は両手を併せ嬉しそうに微笑む。姉妹が初めて伴い子を連れてくるのだ。草一や刈萱の着れなくなった着物がたくさんあるから、分けてあげましょうとか。センは霰と遊んでくれるかしらとか。
此方はこちらで楽しい考え事をしていた。
「姉さん、私はもう行きます」
考えたところで分かるでも無し、会って確めれば済むことだ。そう、時雨は結論を出して姉に声をかける。
「まぁ、
来たばかりだと言うのに、直ぐに発つという妹を心配して春霖が引き留める。
「大丈夫。センを連れて戻ってからゆっくりするわ」
それに今、人の世は夏。
雷雨を得意とするお師匠さまは、そちらに行っていて不在だ。
「そうねぇ。戻ってきたらお師匠さまにも報告しなくちゃね」
伴い子を連れてくる時の浮き立つ気持ちは分かるわ。と、春霖は遠い記憶に想いを馳せる。
「美味しいものでも作って待っているから。早く帰っていらっしゃいね♪」
旅路の無事を祈るように妹の腕を撫でる。
時雨は姉を安心させるように微笑んだ。
ふたりが暫しの別れを惜しんでいると、脇道から釣竿を肩にかけ、紐に通した大きな鯉を手に下げた少年がふたり大道に姿を表した。
「あっ! かか様!?」
「げっ!」
思わずあげた声に春霖が振り返る。
それが養い子の草一と刈萱であった。分かった途端、優しかった春霖の眉がつり上がる。
「お前たち、霰を置いて何処へ行っていたのです!」
わぁ! と逃げていく子等をひと睨みして、時雨を振り返る。
「気を付けていくのよ」
「えぇ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
慌ただしく別れの挨拶をすると、春霖は大道を逃げていく子等を追いかけた。『話は終わってません!』という大声が遠く聞こえてくる。
私もいつかセンをあのように叱る日がくるのだろうか?
想像もつかない光景に笑いが漏れた。
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