第6話 造花の花弁
そういうお店に行ったことのある方であれば、風俗嬢のお仕事が一体どんなものなのかは、おおよそお分かりになると思います。
彼女らのお仕事を一言で言えば「過酷」。
もちろん、慣れてしまえばどうということはないらしいのですが、逆に言えばそれに慣れるということがいかに大変かを思えば・・・
多分、出産の痛みに耐えられないのと同じで、男には無理だと思います。
試しに問うてみますが、これを読んでいる男性であるあなた。
あなたはいきなり「お客として現れた人」が、物凄く不潔だとして、その不潔な人に体中を触られることに耐えられますか?
もしくは、シャワーは浴びるにしても、その人の体を、犬や猫の母が我が子にそうするように、舐めてあげることはできますか?
体臭などは日常茶飯事ですが、当然、顔色1つ変えることは許されません。
嫌悪や拒絶を心が絶叫しても、表面上は聖母のように穏やかに、奉仕をする仕事。
それが、プロの風俗嬢です。
生半可な気持ちで挑める仕事ではないし、相応の覚悟を決めて始めたとしても、何人もの嬢が根っこから気持ちを折られて、すぐに消えてゆくような世界。
僕自身、オーナーとしてお店を始める前に、お客として風俗店に行ったことはありました。ただ自分がかなり「お利口な気質」の客だったので(他のお客さん達もみんな似たようなもんでしょ)と憶測。開店前は
(風俗嬢なんて堕落した女がする一番安易な仕事だ)
などと考えていたくらいです。
それが、男の欲望の底さえない醜さと、それをさえ受け止める女の心身の強靭さをオーナーとして日々目の当たりにするにつれ・・・。
僕は自分の無知を深く反省しました。
風俗嬢というのは【人材】にあらず【人財】で、立派な技術職なのです。
乳房や花弁を晒し、文字通り手八丁・口八丁でたくましく生きる造花達。
さて、それではここで、風俗店に行ったことがないという方のために、一体風俗店とは具体的にはどんなサービスを提供するところなのかを、美人十音の嬢の仕事の流れを元に、解説しておきましょう。
美人十音・嬢の仕事の流れ
1、駅にて待ち合わせ(会えたら店にTEL)腕を組み、肩を並べ、恋人のような雰囲気でホテルへ向かう。
2、入室後、お店に入室のTEL。ホテル名と部屋番を報告。お客様に料金をいただき、お風呂のお湯を貯める。
3、2人で入浴。シャワーで、お客様の体を洗って差しあげる。
4、サービス開始。
5、終了10分前にお店から連絡が入る。そこまでにはプレイを終わらせておく。
6、2人で再入浴(既婚者の場合は無臭系ボディシャンプー使用)
7、名刺を渡し、2人で退室、ホテルから出て別れる。お店に終了のTEL。
簡単に説明すると、以上のような感じです。
別にウチの店に限った話では全くない、どこの店の風俗嬢も行っているごくスタンダードな仕事の流れですね。
ただ、こんなマニュアル通りに動いてくれる良心的な方々ばかりというわけでは当然なく・・・。
お客さんの中には、2人でホテルのエレベーターに乗るなり、いきなり嬢の胸を荒々しく掴んでくる人や、入室するなり豹変し、上から目線で指示してくる人なども数多おりましてね。
まさに(男の数だけ色がある)というほど、個性は千差万別、十人十色。
嬢はケースバイケースで彼らに応対せねばならず、それはもう大変です。そして「大変の度合い」が上がると当然、店側も嬢に少しでもバックを増やさねばなりませんから、そこでどの風俗店にも存在するのが、オプションと呼ばれる特別なサービスです。
ところが店側がオプション料金を設定しても(そんなもん密室ならバレることはない)というようなお客はわんさかとおりましてね。
要は嬢との庭先交渉で、多くの殿方がオプションを追加料金なしの通常コース内に収めようとするわけです。
そうなってくると入室後のことに関してはもう、店は嬢を信じるしかない。
そしてそうやって信頼に応えてくれる嬢の信用を、当然、店は裏切ることはできません。
前章でも触れましたが、できないことを無理矢理強要しようとするお客に当たった時は、速やかに店に電話を入れるように嬢には伝えておりました。
風俗店のオーナーの役目とは、自由奔放な嬢を「縛ること」ではなく、あくまで「守ること」。
ま、守るために縛ろうにも、うちの店の嬢達は僕なんかの器量で縛れるような甘い存在ではありませんでしたがね。
店が決めたルールを恐らくはチョイチョイすり抜けているだろう彼女らが、無事に、何事もなく1日を終えることに、ホッと胸を撫で下ろすような日々。
「持たず、つくらず、持ち込ませず」が非核三原則なら、
「(病気を)貰わず、(借金や子供を)つくらず、(私生活にお客との関係を)持ち込まず」
がうちの最低限の3原則。
そしてそれは問題発覚後、ようやく守られていなかったことを僕が知る、儚い3原則でもあります。
(こりゃ、どっかではよ終わらせな何か起こるな)
・・・そう、良い予感とは対照的に、悪い予感とは得てして、当たるもののようです。
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