第3話

-ヨハネス・ミュラー-


僕が働いているバイト先の店長の名前だ。


名前の雰囲気通り、慈愛に満ちている人で依然ここで万引きをした男子中学生を警察に突き出すのではなく、こんなことが2度と起きないように中学生を説教するぐらいだ。


近所の人からも好かれており、このちっぽけなコンビニに常連ができる程、彼の人格は出来上がっているのだ。


そんな、ヨハネス店長は僕の夢の中で












拷問をしている。




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「(ヨハネス店長……どうして。貴方のような人がこんなことを…)」


そこには、地獄の様な光景が広がっていた。


薄暗い部屋の真ん中辺りだろうか。


手足を鎖で縛り付けられた若い男の子が、目を涙で腫らし真っ赤になりながら、掠れた声で命乞いをしている。


手と足は、ヨハネス店長が鼻歌交じりに歌っていた歌詞にもあったように指が綺麗になくなっている。


そのほかにも傷がいくつもあったが、死に至る程のものではなかった。


少なくとも、指を切り落とされるのに比べては、という話だが。


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5分くらいたっだろうか。もう若い男の子は死んでもおかしくない程、ヨハネス店長にいたぶられていた。


「もぅ……もぅこんな……ことはし…しませんから…許して………ゆるしてくだ…さい…」


この命乞いは無駄だと若い男の子にも分かっていたのだろう。


伝えるというよりはぼそぼそと呟くといった感じだった。


しかし、このセリフで穏やかだったヨハネス店長の顔が一変した。怒りで顔をを真っ赤にしている。


「よくもそんなこと言えたな!お前は半生していなかったじゃないか!だから私が警察に変わってお前の罪を償っているんだろ?もっとも、お前の生命と引換に、罪を償ってもらうがな。」


「(………………!)」


僕はこの会話から、あることに気づいてしまった。


拷問されている若い男の子の正体だ。





そう、あの万引きをした中学生だったのだ!


「(何故だ?普通、万引きしたぐらいでヨハネス店長はここまでのことをするのか?…それともヨハネス店長の会話から考えると、懲りずにまた万引きしたのか?)」


そぅ考えていたら、ヨハネス店長がおもむろにペンチで中学生の歯を抜き出した。


過去にも何度かこういった経験があるのだろう。


歯を1本、また1本と抜いていく手付きは実に、手馴れていたからだ。


もぅ青年には、抗う気力も無いようだ。


見ていられなくなった、僕はこう考えた。


「(ともかく、これ以上の悪事を見過ごすわけにはいかない!ヨハネス店長を止めるんだ…!)」


このセリフだけを聞いたなら、僕は勇敢でかっこいい奴に思えるかもしれないが、実際はそうじゃない。


今、僕を突き動かしている原動力は悪を憎む心でも、勇気でも無い。


店長を嘗めていたのだ。


僕は、あまりにも現実離れした光景を見て忘れていたが、思い出した。


そう、ここは夢の中なのだ。


現実離れしていて当然なのである。


しかもこの夢にはフレッド・クルーガーもでてこない。


エルム街の悪夢では無い。


夢の中でBAD ENDでも、現実ではただ寝覚めが悪いだけだ。


人間なんて、実際はこんなものである。


知らないと怖い。


知らないと動けない。


知って、初めて動くのだ。


物語の主人公は勇敢な者ばかりだが、それはあくまでも物語の中だけなのだ。


現実は、物語のようにはあまくない。


「(よし、行ける!僕ならやれる!)」


少しの勇気を奮い起こした、その瞬間。


「(…………なんだ?)」


違和感を感じた。


本来ならば、この荷物倉庫の気配は僕と、ヨハネス店長と中学生の3人のものだ。


しかし、もう一つ。もう一人分の気配を感じるのだ。


この、薄暗い部屋の何処かから。


「(一体、誰の気配はなんだ!?)」


僕はまた動けなくなった。


この気配が誰のものなのか、知らないからだ。


しかし、今度は向こうから来た。


その気配が何処かからするのかは直ぐに分かった。










僕の後ろからだ。


「っ!ソフィさん!こんな光景見てはいけない!貴方には耐えられ_____________」


僕は、ソフィさんだと思い、慌ててソフィさんの目を隠そうとした。


しかし……


「残念ながら、俺はソフィさんじゃ無い。」


僕の後ろにいたのは_____________


「えっ?」









奇妙な服装の謎の男だった。


「ソフィさんはこっちだ。」


ゴロッ


そういうと、男は何かを地面に向かって投げた。


いや、男のセリフから、それが何かは直ぐに分かった。


しかし、認めたくなかった。認めてしまったら…。





ソフィさんが死んだことを肯定してしまうからだ。


その何かとは、ソフィさんの頭だったのだ。


「!?!?!?」


僕は何がなんだかわからなかった。


それはそうである。ヨハネス店長が拷問をしていただけでも受け入れ難い事実なのに、ソフィさんまでもが殺されてしまったのだ…。


アタマガオカシクナリソウダ


「そんなことより中に入れよ。ドアの前でこそこそ見てねぇーで。よっ。」


そういうと男は僕を蹴って、半ば強引に部屋の中に入れた。


僕は地面に崩れた。


「い、いったい、いい、いったいな、なな、なに

が?、?」


僕は恐怖で口をガチガチと震わせながら、やっと出せたセリフがこれだ。


無様、としか言いようがない。


ヨハネス店長がこちらに気づいたようだ。


ちょうど中学生が悲鳴を上げ終わった瞬間に、地面に崩れたからだ。


「おぉっ。マイク、君か。そんなところで地面とハグして無いで、こっちに来なさい。」


そういうと、ヨハネス店長は嬉しそうに、何処で手に入れたのか分からない。


いや、分かりたくない代物を手にした。




どでかい、そして少し錆びついた鉈だ。


「これで、一緒に楽しむことにしよう。腕は輪切りがいいかい?それとも微塵切り?皮膚を桂剥きにするのもいいね。」




あぁ、そうか………








僕は、これから殺されるのか…









To be continued………






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正夢に抗う 踊るルンパッパ @bugs_of_world

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