『必ず儲かるゲームソフト転売法2』

 鍋島の話を聞いていない理沙の代わりに、鍋島と彼らの会話を振り返ってみよう。


 僕は、理沙と同じように、鍋島の事も見てきた。なんなら、彼の父親の事だって良く知っている。神なんだから、当然だ。


 無口だと思われがちな鍋島も、実は必要があれば饒舌だ、きっと、北本きたもと達も、初めは面喰らったことだろう。



「おい、鍋島、コミュニティ全員からソフトを全部回収してきたぞ。古物商法対策で沢山の人にタダで貸せと言われてたけど、本当に意味があるのか? しかし、一杯あるなぁ、最高記録だな!」


「北本、それは当然だろ? 俺達がやっているのは、百パーセントの消費性向の乗数効果の実験だ、毎日が最高額にならないと困る」


「なんだと? いい加減、言葉遣いには気を付けろ」


「やめろよ二人とも。鍋島、まあ、そうだけどさ、北本が言いたいのは、こんなに順調に行くとは思わなかった、鍋島は凄いなってことだよ……それで……さぁ、これから、どうする?」


「どうもこうも、契約書に『九十日にて終了』と書いてある。これから先など何もない。北本も南川も、了承しただろ?」


「で……でもさ、総額で三百万以上はあるぞ、なのに全部鍋島の物で、俺達には何も残らない……それって不公平じゃないか?」


「わからないな……お前達は、タダで最新のゲームで遊ぶのが望みだった。それは契約通り実行しただろう? それに、元金の1100円は俺が拠出した。資金を出した者だけがゲインを得るんだ」


「それはそうだけどさ……そんなに儲かるとわかっていたら、千円でも二千円でも出したさ! 鍋島だけズルいぞ!」


「あの時、お前達も出せと言ったら断っただろう? 百円すら払いたくないと――これは能力の差だ。能力が低いから、投資の機会をいっしたんだ」


「ぐっ……確かに、鍋島がいなければ、ルールの盲点を突くことも出来なかった」


【中古ソフト販売店のルール】


店の買取 ソフトの在庫が

 (通常)1~9本の時は基本価格で買取

 (余剰)10本以上の時は20%引きで買取

 (在庫切)0本の時は20%増しで買取


店の販売 ソフトの在庫が

 (通常)1~9本の時は50%増しで販売

 (余剰)10本以上の時は10%増しで販売

 (在庫切)もちろん、販売できない


「これを見ただけではなんて盲点は見つからない……でも、今は違う、俺達は知識を得たんだ。俺達だけで、これ以上に儲けて見せる」


「本当に盲点について理解できたのか?」


「もちろんだ、最安値で購入するためには、在庫が10本以上あるものを買えばいい、そして、最高値で売る時には在庫が無い時を狙う。在庫が無くなる時を待つのは難しいから、それを意図的に作るってことだ」


「そう、在庫が10本以上ある時、全てまとめて買えば、在庫が0本になる。その場で全部売却すれば、それだけで利益が出る」


「仮に基本価格100円のソフトを売買すると……」


【店の販売】

  在庫が10個以上ある時は

  110円でソフトを販売する。


【店の買い取り】

  在庫が0本の時は

  120円でソフトを仕入れる。


「つまり、十本まとめて、1100円で買って、1200円で売れる――差し引き100円の儲けだ、ただ、これをやると、すぐ店にばれるから、売買は二つの店を往復して行う」


「凄いじゃないか、でも、これからは、どうするつもりだ? これまでは店が気が付かないように、店が赤字を出さないように気を付けてきた。必ずを徹底してきたからだ。しかし、俺がこのソフトを売ってとルール外の行動をとれば、遅くとも、月末には初めての赤字を出すことになる。しかも、三百万以上もだ。もう、今までのやり方は通用しなくなる」


「それ、わかんないんだよなー。何でこんなに儲けたのに、三ヶ月もばれなかったんだ?」


「南川……お前、バカか。今、言ったばかりだろう? そうだな、ならわかるだろう。最後にババを持っていた方が負けだ。そして、商売は、最後に金を持っていた方が勝ちだろ?」


「ゲームはババなのか? ゲーマーに対する侮辱だ!」


「え? ああ……話を続けよう。これまでは、ババ抜きの勝者は毎日店側だった。しかし、毎日続けた勝負の、最後の一番大きな勝負だけは俺が勝つ。負け分を取り戻し、三百万円を越える利益を出す勝負だ」


「じゃあ、毎日鍋島は損をしていたのか?」


「損ではなく、なんだが……最初に金を出したのは俺だ。1100円払った、だから、俺だけが1100円の赤字だ。逆に店は1100円の売り上げ、そして、次の日、1200円でゲームを売る。俺は差額の100円を儲けたことになる」


「やっぱり、店が損しているよな? だから、すぐに気が付く筈なんだ」


「バカか、をもう忘れたのか? 必ず、ソフトを売って出来た全額を使ってソフトを買う。これを、百パーセントの消費性向と言う。支払われたお金が貯金されずに100%消費されるという意味だ」


「南川はバカだけど、俺はわかったぞ。まず、俺がソフトを売ると、店は仕入れに1200円お金を払う、でも、を守れば、全額でソフトを買って、売り上げ1200円で、プラマイゼロだ……でも、逆じゃダメなのか?」


「わかってないじゃないか。逆だと店は毎日余剰在庫を抱える日々だ。同じ価値でも、在庫を大量に持つ事と、現金を持つ事には大きな違いがある」


「そうなのか?」


「毎日プラマイゼロで、初日の1100円の売上があるから、月で考えれば、店は赤字ではなく、ちょっと黒字だ。利益はほとんどないが、売上は飛躍的に伸びた」


「逆だと?」


「逆だと、店は毎日赤字だ。そして、明日、その日が来る。俺が三百万円を手に入れるからだ」


「全部のゲームを売って、いつもはそのお金で売上貢献していたけど、明日だけは、お金を受け取ってサヨナラって事か……」


「その通り」


「そんなことしたら、怒った店に仕返しされないか?」


「可能性はある、だが、実際にはないだろう。さっき売上が飛躍的に伸びたと言ったが、金額にすると、累計売上は千五百万円増にもなる」


「千五百万円!」


「そうだ、百パーセントの消費性向の乗数効果の実験とは『儲けた金を全額使い切り、それを何度も続ける』と言う事だ。金が続けて使われる事で経済が回りやすくなる効果を乗数効果と呼ぶ。そして、実験は、現実には予想を越えた三百万に達した。俺達は毎日全額を使って売買し続けた。もちろん、初めは机上の計算だっが、だからこそ実験したかった」


「でも、千五百万円だなんて……」


「1100円から始まった取り引きも、三ヶ月間の間に九十回も続ければ、二百万を越える……取り引き額は毎日増えていく、毎日の取り引き額を全て足し合わせれば、千五百万円に達するんだ。そして、オーナーは売上急増の実績を持って銀行へ融資を取り付けた。もうすぐ二号店が建つぞ」


「……す、すげえ。でも、俺達がいなくなったら、その分、売上減だろ? 店が増えたら、大変なことにならないか?」


「まあな、でも、大丈夫だろう。あいつらが――コミュニティのやつらは、中古ゲームの魅力に気が付いた。俺達が無料貸し出しを止めたって、やつらは止まれない。課金してでもゲームをしたいと思うだろう」


「無理矢理ゲームを貸付けさせていたのはその為なのか? まさか、初めからそのつもりで……」


「実験のひとつだ。結果が出るには、もう少し時間がかかる」


「……お前……すげえな」

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