第6話
けいちゃんは統合失調症だった。
けいちゃんは私たちがナースステーションの前で看護師さんからたくさんの話を聞いている間も、ずっと落ち着かなかった。通る人をじーっと見ていた。けいちゃんと分かれてしばらくすると病院から電話が来て、脱水で熱が上がったこと、点滴をすることを聞いた。そして針を抜いてしまう恐れがある、ベッドから起きてしまうからとしばりつけてもいいか尋ねられた。即答でお願いした。次の日会いに行くとベッドにしばられたけいちゃんがいた。点滴をしていた。けいちゃんは何も言ってはくれなかった。ただ何か呟いていた。
けいちゃんがいなくなった家はとても静かだった。私のせいでけいちゃんのなにかのきっかけになってしまった、私のせいだと思った。ただけいちゃんはまた私の隣から離れた。隣に転がっていたけいちゃんは病院へ行った。寂しいような気がしたがせいせいした気もする。とにかく1人減った我が家はそれなりに暮らした。けいちゃんの面会に行った。精神病院は部屋には行けない、ホールに連れてきてもらった。けいちゃんは車椅子から立ち上がれないようにされていた。オムツをたくさん買わなければいけなかった。とりあえず3ヶ月入院することになった。治る病気という話もされたが個人差があると聞いた、何年も何十年も入院している方もいると聞いた。
けいちゃんはしばらく変わらなかった。しだいに返事をしてくれるようになった。あんまり聞くと黙ってしまった。けいちゃんの面会に行ったとき私とけいちゃんの写真を撮ることにした。入院と退院の日を除いて8枚の写真になった。
けいちゃんのいない間に、けいちゃんのものを捨てた。たくさんたくさん転がっているけいちゃんを捨てた。中には私も懐かしいなと思うものがあったけど捨てた。けいちゃんの中学の修学旅行の計画書もけいちゃんが行きたかった専門学校の資料もけいちゃんがもらってきた無料の求人雑誌もけいちゃんが録画したビデオテープも全部捨てた。すごい量だった、休みの日にけいちゃんの面会に行って帰ってきて片付けをした。紐で縛ってまとめて、ものは段ボールにしまってガムテープで閉じた。
けいちゃんはしだいにテレビやスマホ、バックの中身を見たがるようになった。前だったら怒っていたけどそんな気になれなかった。桜や庭の花、犬、けいちゃんの好きなもの、動画、友だちとの写真を見せた。けいちゃんが笑った。それがすごくうれしかった。けいちゃんがしゃべった。それがすごくうれしかった。けいちゃんが立った。思わずお父さんにも写メを送った。うれしかった。歩くのはまだゆっくりだけど、危なっかしいけど歩いた。その頃の写真は2人とも笑顔だった。
けいちゃんは回復していた。うれしかった。あんなにけいちゃんの隣が嫌いだったのに、うれしかった。けいちゃんは変わった、それがうれしかった。
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