第5話

けいちゃんがいたところは家から歩いて30分くらいのところだ。けいちゃんは喋っていた。犬に。犬は知らない場所に連れてこられ高い声で泣いていた。



「けいちゃん、探したよーどこまで行くの?飲み物買ったの?」


「犬と話してたのに、『私』ちゃん来たから分かんなくなった」


「みんな心配してるから帰ろう」


「…」



けいちゃんがなんと言っているのか聞き取れない。時折聞こえるのは意味不明な言葉で、一向に帰ろうとししない。私はお母さんに連絡をとった。




「うちがこうやってるの動画で流れてるの、みんな笑ってるの」



けいちゃんの言葉に思わず笑いそうになった。純粋にけいちゃんが怖かった。笑うしかなかった。お母さんが来た。けいちゃんは車に乗らない。無理やり引っ張って、シートベルトもつけて発進した。走っている間もけいちゃんは出ようとする。カギを開けようとする手を握ってけいちゃんと、何度も名前を呼んだ。



けいちゃんと私は一緒に寝ている。いつも布団を隣同士で敷いている。けいちゃんはずっと独り言を言っている。私のスマホを見ては、時間を確認していた。



「明日が来る。人がいっぱい死ぬ…警察が来る…ああ、明日になっちゃう…」




けいちゃんも私も全然眠れず、起きていた。私は次の日仕事に行った。けいちゃんは朝起きたらほとんど話さず、ご飯もうまく食べられなかった。畳の我が家でけいちゃんはパイプいすに座った。



けいちゃんはふらふらしていた。けいちゃんのために栄養ゼリーやジュース、水分補給用の飲み物を買ってストローでなんとか飲ませた。おかゆも作った。けいちゃんは食べなかった。そしてなりより話さなくなった。しゃべらなくなった。何を聞いても好きなものの話をしても怒ってみても悲しんでみてもなんの反応もしてくれなかった。



けいちゃんはもう本当に、転がっていた。



私は仕事を休んで、お母さんと一緒にけいちゃんを病院へ連れて行った。車の中で病院に電話をした。そこで初めて今までの流れを振り返ってまとめた。伝えるのは難しいと改めて思った。途中の店でけいちゃんを無理やり歩かせて、トイレの個室に一緒に入ったが出なかった。しばらく出ていない。だいぶ歩けないため病院に着いたら車椅子を借りた。けいちゃんは立ち上がろうとしたり落ち着かなかった。診察までかなり時間がかかった。その間にたくさんの検査をした。



「痛い」



けいちゃんは久しぶりにしゃべった。

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