第3話
けいちゃんと暮らすのはつらい。最初のうちこそ優しくできたけどすぐダメになってしまった。
けいちゃんはよく私たちきょうだいを叩いた。私も叩き返して泣きながらケンカした。小さい頃のケンカではけいちゃんは無敵だった。そのうちけいちゃんに叩かれたことを思い出して思いきりけいちゃんを叩くようになってしまった。けいちゃんは叩き返してこなかった。
けいちゃんはしがみつくと離れない。お風呂に入れるのは本当に大変だった。ドアにしがみついたり、座り込んだりする。けいちゃんは好きなものにずっとしがみついて離れない。リモコンも離さない。ものが溜まる。捨てられない、捨ててもゴミ箱からまた戻す。溜まりに溜まったけいちゃんのもので溢れている。けいちゃんがたくさん転がっている。
けいちゃんはいつだったか、夜に私に言った。黒いのが迫ってくる。もう戻れない、と。私は大丈夫だから眠ろう、起きられないよとしか言えなかった。付き合ってしばらく起きていたがいつの間にか寝ていた。朝起きるとけいちゃんは寝ていた。仕事を終えて帰ってきた。まだけいちゃんは寝ていた。文字通り叩き起こした。なんでけいちゃんは働かなくていいの!?寝てていいの?けいちゃんは叩き返さない代わりに働いてるのがそんなに偉いの?とゆっくり起きだして顔も洗わず、フケ防止のタオルを頭に巻いて冷蔵庫のものをつまみ食いしていた。
けいちゃんは私が来てから5ヶ月経っても何も変わらなかった。私は相談してみた、受けてくれた担当者はいい人だった、けいちゃんに会って話したいと言った。けいちゃんにそれを伝えた。
「社会に出ちゃう」
けいちゃんは笑いながらそう言った。すぐには出れないよ、練習するんじゃないと返して私は用事のために出かけた。帰ってくるとけいちゃんはフラフラとしていた。何かブツブツ呟いていた。電話の線を抜いていた。
「警察が来るんだよ、8時に」
「なんで?こないよ?電話きたの?間違えて電話したの?」
「ブツブツ…」
「もっとはっきり喋って?」
「明日は人がたくさん死ぬ」
「お母さん!けいちゃん変なこと言ってる」
その日は震災の前日だった。
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