20話 唐突だが、モッチーとの温泉回的なモノをここで一発挟んでもよいだろうか(1)








「んー、やはり俺は……」



 俺は、完成したばかりの露天風呂を前に、一人うなった。



「天才なのかもしれん……!」



《# かもじゃなくて、まぎれもなく天才だと思いますけど……!!

   こんな大露天風呂、すごすぎです! 素敵です……富士雄ぉぉ》



モッチーも大・絶・賛!!



場所は、例によって『十二斂魔王城』ともいえる大宮殿の一角。



この大宮殿の中央に位置していたスタジアムで、俺は今日、アランドラと戦って勝利を収めたわけなのだが、

そこに連結されている、フィスト家に割り当てられた城部の最上階。



俺はそこに、【玩具創造トイ・ファクター】のスキルと

いくつかの魔術を使って、星空の下の風流な露天風呂をつくり上げることに成功していた。



「おもちゃ作りは、万(よろず)のことに通じているからな……」



まず使用したのは、

石材として、土属性中級魔術である《土盾(アース・シールド)》。



生み出される多彩な魔術製の石材は、

すべて【玩具創造トイ・ファクター】の【再構成リライト】によって

大きな天然石風の加工がほどこされ、浴場の基礎部として一滴の水も漏らさぬ敷き詰めぶり。



木材は適当に近くの森へ、風属性上級魔法である《飛翔(フライト)》で移動して伐採。

これも【再構成リライト】でいい感じになめらか加工、屋根や桶や手摺部分にして設置。



そしてお湯にはこだわらせていただきました。



魔術の師匠である双子、クラーラとリーゼルいわく、

どの魔術であっても、初級の《操(フロウ)》系で生み出す火や水、土とかは、

自然界の火や水や土と変わりないものなんだけど、



中級以上の魔術が生み出す火、水、土、風とかは、すべて魔力でできていて、

通常の火や水や土や風が持っていない性質を備えているらしい。



というか、自分で好きな特性を付与できる? っぽくて、

たとえば火だったら、ドロドロとネバつく火炎だとか、水で消えない火。

あと、そういうのはやる必要はないかもだけど、熱くない火とか、青い火や黒い火とかも、

魔術師は生み出せるらしいのだ。




そこで俺は、水属性の中級魔法水槍(ウォーター・ジャベリン)で生み出せる

魔力の水を、できるだけ魔力が濃厚に染みこむように【魔素契約樹プロトマ・グラム】をいじって生成。



特濃魔法水として、いろんな薬効が溶け込んだ温泉水の代わりとしたのです。



なんか、特濃魔法水とか、効きそうじゃん!?



さらには、天然温泉にできるだけ近づくように、土属性中級魔法である《土盾(アース・シールド)》で

巨大な水槽をいくつもつくり、中に色々な種類の魔術製岩の瓦礫を放り込み、

こう、魔法石から抽出される魔法ミネラルが特濃魔法水へさらに溶け込む感じで、お湯を温める装置を設置!



もちろん、魔法ミネラルがたっぷり溶け込んだ特濃魔法水を温める熱源は、

魔力の火炎である火属性上級魔術爆焔玉(フレイム・ストライク)!!



この火炎特性をいじって、ジリジリずっと、マグマのように燃えるよう火加減を調整。

ひゃー、ますます天然温泉っぽーい!



で、これに直接、魔法水が触れるとたぶん大変なことになるから、

間には厚い《土盾(アース・シールド)》が何層にも挟まるようにして特製の魔法温泉釜をいくつも作り、

そこを濾過装置のようにして、つねに魔法温泉水を熱く温めながら循環させてるってわけ……!



それから、いくつかの《爆焔玉(フレイム・ストライク)》で生まれた熱は、

温泉水を温めるだけじゃなく、というか明らかに水を熱するだけだとオーバースペックなので、

排熱は露天風呂全体の石をじっくり温めるのにも利用されてて、


結果、こう、ふつうの温泉にはありえない、露天風呂全体が全体が岩盤浴的なあったかさを持つようになって、


なに?


ここ、天国?



みたいな施設ができあがっています!!



露天風呂のデザインは【大百科エンサイクロペディア】を参考に、古式ゆかしい和式を採用。




「あーもうなにこれ、すっごい楽しいんですけど」




火属性初級魔法操火(フレイム・フロー)で作った、

いくつものオレンジ色の篝火に照らされた富士雄式マイ温泉。



お湯もなんだか予想以上にいい匂いだし、床の石材もぽかぽかで、



「では、一番風呂……いただきます!!」



 特権!!



これだけでも魔王に転生してきた甲斐がある……!!



俺は、湯気が湧き上がる湯船にゆっくりつま先から侵入。



「ふぅぅううああああ……っ!」



ざぶっと肩までつかり、俺はいい感じの岩に背を預ける。


ちょっとゴツゴツしてるので、【再構成リライト】で調整。


んっ、よし、こんな感じで……ッ!



「ぁぁぁあああ……染みるゥゥゥ……っ」



静寂。



静寂の中に、掛け流しのお湯の音が風流に響く。


ぱちぱちという篝火の音。




「ふぅぅぅぅぐぐぐぐ…………」



頼む、おっさんみたいな声、出させてぇぇ……っ。

出ちゃうのぉ……っ。



俺は頭に乗せたタオルで顔を拭いて、元に戻す。



「魔術温泉、大成功……」



く つ ろ ぐ。



ああもう、おもちゃ屋さんの隣に、おふろ屋さんもはじめちゃおうかな……!



「しかし、二回戦が急に明日に延期とか、実際ラッキーだよなぁ」



 気持ちいい、不思議な匂いのする湯気を吸い、俺は深々。



「モッチーからもらった【玩具創造トイ・ファクター】も、まだまだ使いこなせてないうちに

 双子から魔術まで教えてもらっちゃったからさぁ……」



俺は湯の中から両手を持ち上げ、にぎったり閉じたり、

頭のなかにある、新しいおもちゃのアイデアをぱらぱらめくって整理したり、

右腕の【封果チェンバー】内に貯めた魔術の果実を確かめたり。




「もう、あれだよ? 誕生日に『レゴ・ブ◯ック』と『プラ◯ール』と

 『シルバ◯ア・ファ◯リー』をいっぺんにもらって、

 もう、嬉し過ぎてどうしていいかわからない子どもみたいな感じっていうの……?

 次にどれをいじればいいの!? いくら時間があっても足りないっていう、そういう……っ!」



 俺はずるずるざぶんと湯の中に潜り、ゆっくりぷはーと浮き上がり、



「でも、こうやってゆっくりできる時間をもらえて、温泉とかも作れるのがわかってさ……!」



 ものすごい立体感を持った満天の星と、夜闇の中に幾重にも重なるカラフルな天の川を見上げ、

俺は呼びかける。



「でさ、モッチー」


 

 恩人。おもちゃの神であり、俺の女神である金髪の少女の名を口にした。



「今日いろいろ新しいスキルが増えたじゃん……? トロフィー獲得とか自作とかで、

 モッチーにもらった以外にもたくさん。それをいろいろ整理してさ、

 魔術もちゃんと属性ごとに、一つ一つ、どうやっておもちゃ作りに役立つか

 話し合いたいんだけどぉ……っ!!」



静寂。



静けさの中に、掛け流しのお湯の音が風流に響く。


ぱちぱちという篝火の音。



「モッチー?」



モッチーから返事がない。



「あれ……?」



そういえば、俺が温泉に入るために、腰のタオルを取るときに【情報化視界】からも

「きゃーっ」みたいに転がり出てったきり、戻って来てないような。




「それなんですけど、おとなりよろしいですか? 富士雄」





「はぁッ!? モッチーっ!?」



 ぱしゃぁんと、俺の腕に抱きついてきたのは、かわいい金髪の女の子。

 それは天界で会い、今までずっと【天の声】と【視覚化マスコット】として俺をサポートしてくれていた、



「モッチー!? な、なんで、ここに……??」


「富士雄とどうしても一緒に温泉に入りたくて、こっちの世界に受肉してきちゃいましたっ!

 こんな露天風呂、がまんできません……っ! 流石です富士雄っ!」


「はぁっ!? それって最高なんだがっ! モッチーっ!!」



おもちゃの女神はもちろん、裸だった。



「ひゃっ!」


「あ、ご、ごめ……っ!」



俺は、女神をぎゅっと抱きしめてしまってから、慌てるのだが、



「いえ、富士雄。どうぞ、来てください……っ///////」



身体を離そうとした俺の両腕をつかんで、モッチーが抱きついてくる。








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勇者到着まで あと 62時間03分49秒

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異世界魔王の日常に技術革新を起こしてもよいだろうか おかゆまさき @okayumasaki

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