さよならキラキラの日々

『思い残すことはないかい、サーシャ』


 空港に向かうモノレールの中、海辺に投げやった気怠い視線は、緩やかにさらわれていく。

 カズキは結局、自分の正体に気付いて、茶番に付きあってくれたのだろうか。

 そんなことを考えるのも、もう止めることにした。


『これで僕もお別れの時だ。お疲れ様、君が魔法少女になってくれて、良かった』


 最後の最後まで、ピクシーは。

 こちらの気持ちを察することなく、一方的にそう告げた。

 そして、もふもふした姿は、光の粒に包まれて薄らいでいく。きっと故郷に帰るのだろう。


 なんだかとても忙しい日々でした。

 幼い頃から書きためていた魔法の詠い文句も使いはたしてしまい。

 どれだけ孤軍奮闘しようとも、別の魔法少女に巡り逢うこともありませんでした。


『この街にはまた災厄が訪れるだろうけど、それは魔法ではどうにもできないことだ。君はやるべきことを果たした』


 クリスマスの日、街に溢れる失恋の東雲色を喰らう魔物を、フルスイングした話も。

 宇宙から落ちてきて、漆黒になりきれない酩酊の墨色にのたうつ魔物と、ともに月を眺めた話も。

 ぜんぶぜんぶ小さな胸に閉まって、故郷に帰っていきたいです。


 やがて遠い思い出になっていくその日まで。






   魔法少女ふわふわの夏(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る