「アンスコだから、だいじょうブイ」

「はや死ぬカト。まさかラスボスより強い裏ボスが出てくるとは、予想していませんでシタ」


「ありがちな展開だなぁ……。魔法少女サーシャ、劇場版かな?」


「サーシャの死闘を、ありがちの一言で片付けられてしまうとは心外デス。いや、この世の裏にあるドス黒い混沌を、一般市民の想像が及ばぬところまで遠ざけることが、魔法少女の望んだ在り方なのでシタ」


「良い最終回だった。うん。……そういえば、サーシャの戦う魔物はさ。どうして色彩を奪うんだろうか」


「一口に色彩といっても、色々な感情と結びついてマス」


「色だけに」


「ワハハ。ついさっき、あそこらへんで倒した隠れボスは、赤を奪ってマシタ」


「あそこらへんってなぁ。魔法少女たるもの、玉の汗這わせた素足でおなざりに指さすなよなー」


「ご覧のとおり、サーシャは全身全霊使いはたして、ここ伊宮いみや神社に横たわっているのデス。ぶっちゃけ不覚を取りまシタ」


「そんな格好で足開くとスカートから見え、……白いの見えてんぞー」


「アンスコだから、だいじょうブイ」


「さすが、そのあたりは抜かりはないか。……ん、あそこらへんって、留置場あたりか」


「道理で、怨念あるヤツらばかりおんねん、というわけデシタ」


「ん?」


「とにもかくにも焦がれた復讐の赤が強すぎて、それを喰らった魔物が増殖シマクリ」


「赤って、まさか奈良原ならはらの……。まさかな」


「魔法少女に、まさかはありまセン。いや、むしろ、まさかしかありまセン」


「その赤は、サーシャが取り戻したのか」


「もちろん取り戻したゼイ。復讐の赤が、奪われて妄執の赤になったのを、早秋の赤にしてナ!」


「そうか」


「フ」


「……本当にそうだったら、……恩に着る」


「いいってことヨ」


「しかし、となると魔物は感情が欲しいってことなのかぁ。強い色のついた感情が」


「嫉妬まみれの死闘はもう勘弁ダゾ」


「わははは。お疲れ様」


「このとおり、魔力を宿した声も枯れはてて、いよいよ引退というわけデス」


「む。魔法少女って、声が命みたいな感じなのか?」


「そりゃそうヨ。魔法を詠ずる少女の声、略して魔法少女ですカラ」


「斬新な定義だな……。じゃあサーシャはさ、声が特別だから魔法少女になったのかい」


「フフン。それもあるけど、こんなふうにピクシーが言ったのデス。

 『君が本当に救いたい相手は、どんな魔法を使っても救えない。けれど、その救いたいという気持ちは、思いもよらない誰かの助けにはなるかもしれない』ナンテ」


「うーむ、含蓄があるような無いようなセリフだなぁ。ちょっと悪魔の誘いっぽい」


「ちなみにピクシーは今、アナタの頭上でブレイクダンスと洒落こんでマス」


「悪魔だ。間違いない」


「シカリ」


「ところで、これは譚丁たんていの勘なのだけれど、サーシャが救いたい人って、たとえば色が感じられなかったりするのだろうか」


「……! そうデス。重度の色盲デス。生活に支障ありマクリ。よくアレで、この年まで生きのびられたものデス」


「その人は、音色より色彩を気にしているように、サーシャには見えたのだろうか」


「音色? ……たしかに、故郷で天使の歌声と謳われたサーシャからすれば、ひどい音痴デスガ。それは別に良いのデハ」


「ん、んんん。そうか、そっちはうまく話を合わせてるのか……」


「ハイ?」


「あーいやいや、なんでもない。そうと分かれば、この前の依頼を解決するとしようか。この作戦には、サーシャ迫真の演技が欠かせなくて――」



 ~~~


「――そんなわけで、そんな感じの作戦を遂行することになったぞい」


「ちゃ、茶番じゃないかな、かな」


「手厳しいなぁ。サーシャにもそう言われたけど。魔力を失った魔法少女が、よりにもよって魔法少女のフリをするとか屈辱でしかないって、めっちゃ罵倒されたけど。あれ、なんでオッケーしてくれたんだろう……」


「さ、さすがに有栖川ありすがわさんにはすぐにバレる気がするけど、けど」


「いや。和紀かずき君、どうも声だけだと人の判別付けられないっぽいから、ばっちりコスプレ決めて顔さえ見せなければ大丈夫だと思う」


「そ、そこまでしなくても、ふつーに有栖川さんとアレクサンドルさんを会わせて、ちゃんと仲直りとお別れさせてあげればいいだけなんじゃ、じゃ」


「普通は、そうするべきなんだろうけどさ。それだと魔法少女サーシャの物語が救われない気がしてなぁ」


「そ、その物語は、とくに有栖川さんには何の助けにもならないうえに、アレクサンドルさん自身が終わらそうとしてるのに、のに?」


「だとしてもさ。誰にも認めてもらえなかった物語の幻影は消えず、ひょんなところで魔が差したりするものなんだよ」


「な、奈良原さんや井内いのうちさんのこと、こと」


「……いや、俺が見てみたいだけなのかもしれない。サーシャの魔法を」


「お、お兄ぃって、そういうところ悪人だよね、よね」


「むむむ。なんだかんだで、静矢しずやさんもノリノリで演じてくれることになったし、そんな悪いコトでは。……たしかに、やっぱり喧嘩別れで終わる可能性も、あるんだろうけどさ」


「げ、ゲームはいいよぉ、よぉ。ど、どれだけ殺して塗りかえて死んでも、すぐに元通りだよぉ、よぉ。に、人間関係も要らないし、ないし」


「いや、そのオクトゥーンな。そもそも二人で協力して戦うゲームを、無理に一人プレイして人間関係取り除いているのはお前だし、それで負けた相手の少なくとも一人は、ショックのあまり奇行に走ってたからな……」


「そ、それはびっくり、くり」


「まったく本当にな。人の繋がりっていうのは、思いのほか狭くってさ。けれど目の前にいる妹の顔を、拝むことすらできなかったりもするわけで」

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