「もう……友達だなんて思ってませんから」

「ひとつ訊きたいんだが」


『……なに……』


「たとえば友達が悪いことをして、それを警察に突きだしたとして、それでも友達を続けられるだろうか」


『……私が世界を滅ぼそうとして……』


「それを俺が止めても、兄妹であることには変わりないって? そうだな、そんな気がしてきた」


『……約束……』


「分かった。あとな、やっぱり譚丁たんていサークルは続けようと思う」


『……うん……』


 ~~~


「…………」


「…………」


「…………」


「……元気そうで良かった」


「なんで、こんなところまで面会に来たんですか。常識的に考えて、こんな惨めな姿なんか知り合いに見せたくないって、分かりますよね?」


「分からないよ。奈良原ならはらには思いっきり面会断られたけどさ、こうやって会ってくれるのなら。

 それに井内いのうちさんは、どこにいてもわりと可愛いよ。その分かりやすく、ほっぺた膨らませて拗ねるところとか」


「なんですか、なんなんですか、キャンプファイアーの時から、ときどきそういうナンパみたいなセリフ、明らかに言い慣れてなくて、すっごい無理してて」


「あー、バレてたか」


「下心バレバレもいいところです」


「最初は疑ってたんだ。……井内さんが放火予告したんじゃないかって。でも、勘違いだった。ごめん」


「勘違いどころか、わたしは」


「嵐はまぁ、いずれ過ぎ去るものだから」


「その頬のガーゼは」


「これさ、豚カツ揚げるの挑戦してみたら、めっちゃ油跳ねちゃって」


「……そうやって最後まで誤魔化そうとするんですね、あなたも。結局、わたしが本物の放火魔なのかどうかは、なぜか警察も教えてくれなくて。真相は不確定なまま、まだ生きていかねばならなくて」


「真相じゃなくて、事件に潜む深層を見つけだすのが、探偵ならぬ譚丁だから。……なんちゃって」


「ぜんぜん意味が分からないです」


「そういえば今回の事件けっこう世間的なニュースになったんだけど、肝心なところは報道されてないぽくってさ。元凶の上映装置を造った繭棲まゆずみ先輩も、失踪しちゃったらしいし」


「興味ないです」


「そうだ。なにか欲しいものあったら、次は差し入れするよ」


「とくにないです」


「食事とかはちゃんと取れてるだろうか」


「ムショ飯、わりと健康的でダイエットにうってつけなんで」


「……今日はとりあえず、お暇するよ。またそのうち面会申しこむからよろしく」


「もう犯罪者のところに来る理由なんてどこにもありませんよね、探偵さん」


「いや、あらためて譚丁サークルの勧誘に来るよ。やっぱり独りぼっちは寂しいと思うから」


「もう……友達だなんて思ってませんから」


「ま、友情が両思いじゃなきゃ友達じゃない、なんて法はないからな。じゃあ、また」




「………………。……どうして……っ……わたし泣きそうになってるのかなぁ……もうどこにも焦がれた炎はないのに……ぅぁぁ……」






   灼け焦がれた涙(了)

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