「この病室を出る頃には」

「おっつー」


「おう、妹よ。色々とありがとうな」


「んでんで、首尾はどうだったー」


「上々。まぁ悪くない人生だったよ」


「あちゃー、もう人生語っちゃいますかー」


「ま、そういうものに思いを馳せるくらいには貴重な体験だったよ。お前も奉納舞さ、観にくれば良かったのに」


「データは全部、手元にあるものー。しばらくは解析で暇潰しできそー」


「そうか、それは何よりだ」


「んー」


「で、だな。ずっと言いそびれていたんだが、お前に伝えなくちゃいけないことがある」


「どうぞー」


「母さんから手紙を預かってる。最期の直筆だ」


「えー」


「これだ。曇りガラスの下、通すぞ」


「べつにスキャンしてメール添付とかでいいのにー」


「良いわけあるか。それに俺が見ていいものでもないだろう。で、なんて書いてある」


「えー読まないよー」


「いやいやいや。それはダメだろうさ。人間として」


「じゃあ人間やめるー」


「お前な」


「分かったー。お兄ぃの顔に免じてねー、封を切るよー。この病室を出る頃には」


「……はぁ。本当だな」


「うむー」


「よし、信じてるぞ。じゃあな、ちょっと用事あるから今日はここまでだ。今度、学園祭があってさ。また来る」


「まことにー? なんだかんだでー、ここにも明確な用事ないと来ないよねー、お兄ぃってー」


「うぐ。じゃあ何かしら用事かこつけて来きてやるから、震えて待ってろ」


「がくがくぶるぶるー」


「じゃあ、また」


「…………」




「また、面白い物語を見つけてきてねー。お兄ぃ譚丁たんてい






   伊宮いみや奉双譜ほうそうふ(了)

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