あるいは街に吹いて絡みあう双蛇が視た夢
晴れやかな青空が続いた一週間だった。
大型連休も明けて、気怠くも透明な学生生活が、つつがなく過ぎていった。
そして今日は、
見上げた先の色褪せた鳥居に向かい登っていく、天を覆う葉の重なりは厚く、石を這う苔の重なりは厚く。
不思議と、いつまでもどこまでも登っていけるような気がした。
柄にもなく、はしゃぎすぎたように思う。
新しい街に来て、新しい生活を始めて、新しい人たちと出会って。
母の遺した「人の生き方に物語を読めるようになりなさい」という言葉は、あまり気にしないように努めてきたつもりだったけれど。
日常譚を装丁するところの
だからせめて、自分たちは街を一望できるところに行こう。そして、この世を去ってしまったものたちの話をしよう。
ずいぶんと大人びているようでも、夜は祖父を偲んで泣きっぱなしだったらしい男の子と、そんな約束をした。
ひらり桜の花びらが、頬を掠めた。
引いた幼い手をぐっと引きあげ、共に潜った鳥居の先で、ゆったりと巫女が舞っていった。
「 」
さっと切りかえす漆黒の扇。
緋袴に白衣、その上に着こんだ祭事用の千早に、前天冠から垂らした緋桜の紐が遊んで。
ふらふらと泳ぐ純白の扇は、神前に迷いこんだ妄執を切りさいた。
メジロの鳴き声が聞こえる。
鳥は霊魂を運ぶ器。そんな言い伝えが頭を過ぎって。
舞の一挙一動に間延びしていく時は仄かに香らせた永遠を刻んでいく。
これは誰のための舞なのだろうか。
少なくとも
そのどこかできっと、
位置情報を確認するためにスマホを取りだそうとして、そんなものは家に忘れてきたことを思いだした。
いつしか引いた幼い手は離されて、隣に立つ
もしかしたら、すべて思い込みかもしれない。
ただ単に、小鳥に餌をやる夢遊病患者と、小鳥と仲の良い猫と、風に吹かれた街の声を聴いて舞う巫女がいて。
それから音程を解さない男の子が、巫女に見惚れているだけかもしれない。
そうであったとしても、そうでなかったとしても。
縁ある三つの物語が今ここに像を結んでいくように感じて。
それで充分だと思った。なにか報われるものがあるような気がした。
「―――――――」
それから、
伊宮神社の奉納舞は、
黄昏に夕陽が落ちるまで続いた。
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