第十章十二節 覚悟の問い直し(中編)

「いいの? 龍野君」


 エーデルヘルトが去った後。

 ヴァイスは龍野に、決断の是非を問うていた。


「いいんだよ。

 これは……俺の迷いを今度こそ完全に吹っ切る、チャンスなんだ」


 龍野は確たる意思を宿した目で、ヴァイスを見つめながら答える。


「けど、俺は多分、手加減できねえ。

 だから、ヴァイス。


 いざとなったら、無理やりにでも止めてくれ」


「わかったわ。

 存分に、迷いを晴らしてらっしゃいな」


 ヴァイスは真剣な表情で、龍野の頼みを聞いた。


「助かるぜ。ヴァイス」

「何を言っているの、龍野君。

 幼馴染として、あなたの主として、そして……当然の対応よ」


 言い終えると同時に、ヴァイスは龍野の口元にキスをする。

 突然のことに、龍野は反応しきれず、固まっていた。


「んっ……」


 ヴァイスは龍野の後頭部を抱き寄せ、さらに舌をも絡めてきた。


「んん、くちゅ、ぴちゅ……」

「んぅ、ちゅっ、ちゅぅ……」


 状況を理解した龍野もまた、ヴァイスを抱き寄せる。

 そしてヴァイスに負けじと、濃厚なキスを始めた。


「んふっ、ちゅ、ちゅぅ……」


 互いが舌を絡めあい、ぴちゃぴちゃという水音が響いている。

 もはや今の二人の意識は、キスをする事にのみ集中している。

 酸素を補給するのも忘れ、目の前の異性の唇と体温を、貪っている。


「んんっ……!」


 やがて、二人の動きが止まる。

 十分な満足を得た二人は、余韻を味わうように、静かに抱き合っていた。


「んっ……ぷはぁ。

 はぁ、はぁ……」


 そして、やっとというタイミングで呼吸を再開した。


「ふふ……どうだったかしら?

 久しぶりのキスのお味は」

「まったくもう、ビックリしたぜ。

 だがな……最高だったよ、ヴァイス」


 その答えを聞いて、ヴァイスは満足そうに微笑んだ。


「それは良かったわ。

 では……行ってらっしゃい、私の騎士様」

「ああ!

 陛下に、俺の覚悟を示してみせる!」


 龍野は力強く言い切ると、準備体操を始めた。


     *


「それにしても……。

 まさか二度目の決闘になるとはな」


 良好なコンディションを作り出した龍野は、騎士服のまま、地下広場に入った。


「さて、待つか」

「その必要は無いぞ」


 声に振り向くと、エーデルヘルトが龍野に続いて入っていた。


「陛下……」

「良い。私の準備は万端だ。

 貴様はどうだ、須王龍野?」

「万端に、ございます」

「そうか。

 ならば、存分に行かせてもらおう。ヴァイス!」

「はい、お父様」


 龍野の近くに控えていたヴァイスは、決闘開始の宣言を行うために、二人の間に立つ。

 そして――


「これより、騎士須王龍野と国王エーデルヘルト・レーベ・ヴァレンティアの決闘を開始する。立会人はこのヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティアが行う。決闘を終える条件は、必要以上の手傷を負ったときのみとする! では――――始め!」


 決闘開始の合図が、なされたのであった。


     *


「……」


 合図の直後、龍野はただちに黒騎士化する。

 ブローチが光り輝き、漆黒の鎧と大剣を形作った。


「ほう。

 私のあずかり知らぬ所で、新たな力を手にしたか」


 エーデルヘルトは徒手空拳のまま、余裕を持って眺めている。

 一方の龍野は、慎重に構えていた。


(以前は前に出過ぎて、あっという間に押し負けた……。

 だから今度は、少しずつ詰める!)


 油断なく大剣を構え、慎重に距離を詰める。


(時間さえかければ……)


 じりじりと距離を詰める龍野だが、エーデルヘルトには悠長に待つつもりは無かった。


「生憎だったな」


 右手を軽く振ると、龍野の足元に魔法陣が出現する。


(おっと……!)


 龍野が魔力噴射バーストで左に跳躍した直後、間欠泉が噴き出した。


「やはり対処するか。見事だ」


 エーデルヘルトは龍野を称賛しつつ、二撃目を繰り出した。


(今度は津波か!

 だが……!)


 龍野は構わず、光条ビームを数発叩き込む。

 津波の一部に穴が開いたのを確かめると、塞がりきる前に突破した。


(少なくとも、以前よりは濡れていないな)

「またも凌ぐか。

 では、もう小細工はやめるとしよう」


 同時に多数の魔法陣を繰り出したエーデルヘルトは、腕の一振りで号令を下す。


け」


 魔法陣からは氷柱が現れ、龍野を包囲する。

 そのまま勢い良く射出され、龍野を貫かんとする――


「なら、こうしますかねッ!」


 直前、龍野が魔力噴射バーストで浮き上がった。

 そのまま空中で、狙いを付け――


「甘いな」


 突如右から迫りくる氷柱により、狙いを外された。

 龍野へのダメージは障壁のお陰で皆無だが、光条ビームの軌道が逸らされた。


(やっぱ陛下は強いな……。

 微動だにしねえし、隙も全く存在しねえ。


 ……なら、こうするか)


 龍野は氷柱の陰に隠れると同時に、氷柱に大剣を突き立てた。

 そして、魔力を――


(これなら、見切れねえだろ!)


 氷柱ごとエーデルヘルトを貫かんと、光条ビームを放った。


「むっ!」


 エーデルヘルトの驚愕した声が、地下広場に響く。

 障壁で防御はされたが、奇襲の効果は上々だった。


「はぁあっ!」


 好機と捉えた龍野は、すぐさま距離を魔力噴射バーストで詰める。


「少し、侮ったか……?」


 エーデルヘルトが次々と氷柱を召喚するも、全て弾かれる。

 そして。


「はぁっ!」


 龍野の振った大剣の一撃が、エーデルヘルトを捉えたのであった。

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