第十章二節 闇より奏でられし破滅への序曲

「それじゃ、また来るぜ」

「ええ。体には気を付けてね」


 龍野はヴァイスに見送られながら、出国ゲートを通り抜けた。


「さて……久しぶりの、日本か……」


 ひと時の日常に想いを馳せながら、飛行機に向かった龍野であった。


     *


 龍野が日本着の便びんに乗った頃。

 『闇』本拠地内には、再び謎の少女がいた。


「お邪魔してます」

「また貴様か……!」


 麗華にとっては、恨み骨髄に徹す、といった様子だろう。具体的な心当たりは無いか曖昧であっても、体が「許すまじ」と警鐘を鳴らしていた。


「さて、そろそろ次の啓示を、と思ってね。お姉ちゃん」


 本をパラパラとめくり、ある所で止める。


「啓示、など……!」


 だが、麗華にはどうしても抗えなかった。

 視線を向けまいとしても、強制的に本を向いてしまうのだ。


「ッ……!」


 抵抗を無駄だと悟った麗華。

 仕方無しに、本の中身を見た。


「ッ、これは……!?」




 本には、麗華にとって信じられぬ光景が映っていた。




「これは……まさか、私か……!?」

「そう。おねえちゃんは、近いうちに人をあやめるの。それも、ね」

「ッ……!」


 予言された未来、それも知りたくないであろう話。

 その言葉を聞いた麗華は、恐怖で青ざめる。


「まさか……まさかまさかまさかッ! どうして、どうして私がをッ……。それも、二人も、だと!?」




「どうして? そんなの、聞くまでも無いじゃないの、おねえちゃん。“親しいから”だよ? うふふ」




 楽しそうに、冷酷な事実を告げる少女。

 実際、少女の中の心は、愉悦で満たされていた。


「あぁッ……ああああああッ!」


 実体は伴わず、されど麗華の心は認識している。「全てを喪失する未来は、」と。

 麗華はその事実を悟り、絶望し、静かに涙を流し始めた。


「けれど、一度だけ、一分間の猶予を与えるわ。おねえちゃんが必死にもがく姿、見せてちょうだいな」


 少女が麗華の頭部に手を添える。


「先に言っておくわ。今回はおねえちゃんを、すぐにはどうこうしない。そうね……うふふ、『が安らぎを覚えた時』には、動いてもらおうかしら」


 麗華は何も答えず、ただ静かに涙を流していた。


(申し訳……ございません。そして、お前には合わせる顔が無いな…………)


 一瞬のち、眩い光が部屋を包んだ。

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