第八章三節 孤独なる黒騎士

 龍野は一度斬撃を中断し、遠距離攻撃に移ることにした。


(これなら、どうだ……!)


 乱射した内、数発が弓弦に命中。障壁に防がれてはいたが、確実に耐久度を削っていた。


 しかし、ヴァイスが射線に割って入った。


「どいてくれるつもりは無いのか……!? 頼む、ヴァイスっ!」


 それでもヴァイスは射線から退かない。


「どこを見ている!(無駄だ、須王龍野……姫殿下は確実に、私と豪さんを守る)」


 弓弦が遠距離から矢を放つ。

 空中におり、しかもヴァイスに気をとられていた龍野には、かわせなかった。


「ッ!」


 障壁は貫通しないでくれたが、相性の不利ゆえかヒビが入ったように見える。


(いくら鎧を纏っても、障壁が強化されたワケじゃないんだな……。まあ、保険だと思うか。それにしても……もしかしてヴァイス、あいつらを守っているのか?)


 龍野は一つの予想を抱きつつ、もう四、五発レーザーを弓弦に向けて乱射する。

 案の定、ヴァイスが障壁で受け止めた。


(クソッ……やっぱそういうことかよ!)


 龍野は遠距離攻撃を諦め、接近戦に持ち込もうとする。

 途中で弓弦の矢が飛んでくるが、今度は見切って避け、接近し――


「流石は姫様です!」


 弓弦が叫んだかと思えば、ヴァイスが龍野の前に立ち塞がっていた。


「クソッ……!」


 ヴァイスは既に氷剣を召喚していた。龍野に斬りかかり、接近を妨害する。

 その間に弓弦は、二階に停まっているシースルーエレベーターの陰に隠れて態勢を整え始めた。


(八方ふさがりじゃねえか……。ヴァイスは取り戻せず、俺は死ぬ。逃げればヴァイスは永遠に操られっぱなしのまま、シュシュにはどやされるどころじゃ済まねえ仕打ちを受けるだろうし……。ああっ、クソッ!)


 龍野はヴァイスの剣を受け続けている。このままでは、いずれ障壁を破られ、よろいかぶとだけになった状態を弓弦や豪の集中攻撃で突破され……最終的に、死ぬ。


(どう攻撃しても、ヴァイスはあいつらの盾に……ん? 待て……無理に攻撃する必要って、あるのか……?)


 疑問を浮かべた龍野。

 だがヴァイスの猛攻に、思考を遮られる。


(悪い、ヴァイス。少し動きを止めてくれ!)


 龍野は魔力噴射バーストで強引にエレベーターを回り込み、レーザーを照射した。


(あいつらの言う通りなら、これで……!)


 照射開始後、一秒程度は弓弦の障壁で防がれる。


 だが案の定、ヴァイスが躍り出て、弓弦の盾となった。


狙い通りだ・・・・・! ヴァイス、動くなよ!)


 それでも龍野は、照射をやめない。

 位置取りと出力を調整しつつも(全力で出し続ければいずれヴァイスを貫通する上、魔力を無駄に消費するため)、龍野は照射を続ける。

 弓弦が楕円形の空間中央に逃げるが、龍野にとっては好都合だった。

 ヴァイスを盾に、弓弦との距離を調節出来るからだ。


(今だ!)


 龍野はヴァイスに肉薄する。

 ヴァイスは驚いた様子で逃げようとするが、龍野が腕を掴むのが先だった。


(この距離なら……一階にいる豪からは死角のはずだ。弓弦も追い散らした。猶予時間は少ないが、やってみせる!)


 龍野はヴァイスの両肩を掴む。


(頼む、言うことを聞いてくれ!)


 祈るような気持ちで、一度兜が消滅するように念じた。

 すると兜は、素直に消えてくれた。


(よし、これなら――!)


 龍野は大きく息を吸い、説得を始めた。


「俺は須王龍野だ! しっかりしろ、ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア! 幼馴染の俺の顔を、ちゃんと見てくれ!」


 生み出された、数秒の沈黙。


「………………」


 しかしヴァイスの答えは冷酷であった。




 龍野を突き飛ばし、弓弦の元へと向かって行った。




「クソッ……!(まだ説得が通じていない……なら、もう一度だ!)」


 龍野は武器を召喚しようとし――否。出来なかった。


(こんなタイミングで……! 頼む、出てくれっ!)


 何度も念じるものの、全てが黙殺された。


(何でだ!? 何でこの、肝心な時に……ッ!)




『お前が武器を用いる必要が無いからだ』




 謎の念話が響いた。


『誰だ、お前……!?』


 すかさず念話で返す。


『私か? 誰でもよかろう』

『よかねえよ!』

『まあいい。ヴァイスハイトとでも呼んでくれ』

『ヴァイス……ハイト!?』


 ドイツ語で「知恵」を意味する単語を名として語った、謎の人物。


『お前にこれだけ告げておこう、須王龍野。お前の武具は、お前が念じるまでもなく、必要な時に必要な行動を起こす』


 ヴァイスハイトが淡々と語る。

 龍野は、ただ黙って聞く他なかった。


『お前の武具は、お前の所有物だ。。お前は武具達の意思に従い、正しき行いをすれば良いのだ』

『……わかった』

『お前なら、切り抜ける事あたうだろう。さらばだ』

『待て!』


 ヴァイスハイトは一方的に言い残し、声を消した。

 残された龍野は攻撃を回避するため、慎重に移動しつつも、思考を継続していた。


(そうか……武具に固有の意思があるのか。だったら、次は……「武器を持たず、ただ自らを主張する」、か……! わかったぜ、ヴァイスハイト。お前の“知恵”で、切り抜けてやる……!)


 龍野は地下一階に降り、弓弦の、そしてその前に控えるヴァイスの前に躍り出た。


(有りっ丈の魔力を障壁に回す……頼む、持ちこたえてくれよ……!)

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