第六章十節 始まるはレインボーブリッジ上の激闘(東京編その3)
ガギンと耳障りな音を立てて、龍野の障壁が矢を弾く。
何の仕掛けも無い、通常矢だ。
「龍野君!」
「大丈夫だ!」
二人は一瞬のやり取りの後、すぐさま二手に別れる。一網打尽にされるのを避けるためだ。
だが予想に反して豪達は、全速力で龍野達とは逆方向に走り出した。
「逃がすか!」
「待って龍野君、罠よ!」
ヴァイスが龍野を制する。
即座に追撃をやめた龍野。だが、豪達は勢いそのままに逃げ続ける。
「どういう魂胆だ?」
「龍野君、私を後ろから抱きしめて、背中と足の裏から
「?(いきなり何を言いだすんだ、ヴァイス?)」
「早くして、でなければなぶり殺しにされるわよ!」
「わ、わかった!」
ヴァイスの指示通りに龍野は後ろから抱きしめ、指示された箇所から
(ヴァイス、三年前より立派な体つきになったな……。俺にはお前がどれだけ苦労したかわからねえが、血のにじむ思いでここまで体を磨き上げたんだろうな、きっと)
龍野は場違いにも、ヴァイスの体つきに感動を覚える。
すると、龍野達の体が浮きあがった。
「龍野君、
「わかった」
その結果、龍野達は飛行状態で移動している。
(だが、どうしてこのような行動を取らせるんだ、ヴァイス?)
龍野が疑念を抱くと、ヴァイスはそれを知っていたようなタイミングで答える。
「今に見てなさい龍野君、彼等二人も高速道路に乗るだろうから」
龍野達が先に、レインボーブリッジの高速道路上に着地する。
『ヴァイス、どうして俺達まで?』
『上がらないと、高低差の不利で一方的に矢や魔力弾を放たれるわ。射的の的同然よ』
『射的の的……だと!?』
その言葉を聞き意味を理解して、龍野はゾッとした。
『だから不利を消す。その為には、このくらいはしなければならないのよ』
龍野は軽く頷き、ガントレットとレガースを纏う。ヴァイスも同様に、氷剣を召喚して構える。
戦闘準備を終えた直後、豪と弓弦が上がってきた。龍野と豪の距離は約25m程度と近いが、弓弦との距離はここから直線距離で200メートル――高低差でおよそ70メートル。
(だが、恐らく俺の
龍野達四人は互いの呼吸を見て――仕掛けた。
ヴァイスは豪を、龍野は弓弦を狙って疾駆する。
豪もまたヴァイスを狙い、弓弦もまた龍野を狙って武器を構える。
キィン、と鋭い剣戟の音が響いた。
(すまんヴァイス、しばらく時間稼ぎ頼む!)
龍野は限界まで助走をつけ、
「そこっ!」
既に準備を終えていた弓弦が、龍野に向かって矢を放つ。
だが龍野は拳を振るい、矢を弾き飛ばした。
(ロケットタイプの矢でも、十分な加速がなければこんなもんだ!)
龍野は更に高度を稼ぎ、後10メートルまで接近していた。
*
(龍野君、私の「
ヴァイスはは豪の剣を愛剣で受け止めつつ、内心で安堵する。
「『絶えぬ
密着状態で連射系魔術を行使する。
展開の速さが幸いして、全弾が命中する。
(けれど手応えは今ひとつね。
今の一撃でそこそこ消耗させはしたけれど、障壁にきっちり弾かれてるから)
ヴァイスは即座に足払いをかけ、豪のバランスを崩させる。
倒れたところに、上段から剣を振り下ろす。
(流石にこれは予備動作が大きすぎて、剣で防御されてしまったわね。では次やる事は一つ)
「『紅蓮の蛇よ、望むままに喰らえ!』」
豪の詠唱を聞いたヴァイスは、即座に飛び退いた。
直後に魔法陣が展開され、炎の
(相当の威力ね……相性で優位だからって、油断できないわ)
ヴァイスは呼吸を整え、剣を正面に構えた。
しかし接近戦を避けるように、豪は
ヴァイスも
(ッ!?)
ヴァイスは飛んで来た豪の剣を弾きつつ、強制停止した。そうせざるを得なかった。
豪は炎の縄で剣と自身を結び付けていたため、悠々と引っ張って剣を回収した。
(やるわね……私には想像もつかなかった大胆な一手……)
けれどヴァイスは、ひとまず現段階で龍野に対し、出来る事をこなした。
(龍野君、距離は十分に詰められたかしら?)
*
龍野は降るように飛来する矢をいなし、弓弦の立っている高い所|(主塔のこと)に着地した。
矢をつがえているが、それ以上はさせない。
疾駆し、一気に距離を詰めて殴る――
(しまッ!? あっぶねぇ……! こいつ弓に刃つけて
しかも両刃だ。振り切ったところを見て突っ込んだ者は振り戻しの一撃で両断される、そういう寸法だ。
おまけに、つがえた矢は落ちない。当然と言えば当然だが、弓弦は弓の扱いに慣れている。
「須王、龍野ァ!」
弓弦が龍野を怒鳴りつけて威圧し、かつ自身を鼓舞する。
「貴様の親が侮辱した弓の一撃、受けてみろ!」
弓弦は立っている場所から身を投げ――
人間が飛行中かつ地面と平行に出すとは思えないほどの狂ったスピードで、もう一つの高い所に移動した。
そして、着地と同時に矢を放ってきた。
龍野はまともに回避できず、矢を障壁で受け止め、強引に軌道を逸らして対処する他無かった。
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