第三章四節 対決、龍野VS『炎』の傭兵
「わかりました。
遠慮なく、やらせてもらいます」
無言でガントレットとレガースを召喚し、構える龍野。
が、龍範が口を挟んだ。
「わかってると思うが……お前ら、大広間に移動してからやれよ?」
*
大広間に場所を移した二人。
「んじゃ、やるか!」
武器を取り出すヴァルカン。M4A1アサルトライフルに銃剣を取り付けた形状だ。
「はい! お願いします!」
龍野もガントレットで
「そんじゃ……行くぜ!」
叫ぶや否や、銃を連射するヴァルカン。
「!」
龍野は姿勢を低くし、頭部を腕で防御。それでも防ぎきれない弾丸は、障壁で強引に弾き飛ばす。
「甘い!」
射撃中に距離を詰めていたヴァルカンは、龍野の心臓目掛けて銃剣を突き出す。
だが、二度続けてサイドステップし、銃剣による刺突をかわす。そして即座に起き上がり、流れるようにして接近戦を挑んだ。
「失礼します!」
銃剣を足でいなしつつ、ワン・ツーを叩き込む。
「ぐっ! いいパンチ持ってるじゃねえか……!」
後ろへたたらを踏むヴァルカン。
「だが……!」
突如、龍野の視界からヴァルカンの姿が消えた。
「!? どこに……!」
わずかに焦る龍野。
「ここだよ」
このときの龍野には、ヴァルカンが足元から出現したように見えただろう。龍野の視界における死角に潜み、奇襲を仕掛けたのだ。
「フッ」
そして鳩尾に一蹴りを入れる。
魔力を纏わせた蹴りだった為、障壁を突破した。
「ぐぅっ……!」
勿論、まだ攻撃は終わらない。態勢が崩れたところに、銃剣を突き出すヴァルカン。
龍野は反射的に、銃剣を目掛けて拳を突き出すことによって、何とか心臓部への直撃だけは避けられた。
そして、攻撃後の隙を作った龍野は、反撃に転じる。
先程の蹴りによって未だ内臓に響く激痛を無理矢理こらえ、足払いをかける。
「ッ!」
命中。龍野は攻撃の手を緩めず、連続して拳による打撃を繰り出そうとする。
事前準備としてマウントポジションを取ったとき……二人の眼前に、赤い魔法陣が召喚された。
「単純な格闘訓練じゃねえんだぞボケッ!」
龍野が飛び退いて逃げようとするが、一瞬早く炎弾が召喚された。逃げきれずに直撃を受ける。
「ぐああっ!」
体を焼かれながら、その場に倒れる龍野。ヴァルカンが目の前に立ちふさがる。
「おいおい、みっともねえじゃねーか! 忘れたのか? 今俺達はルール無用の戦いをしてんだ。当然魔術だって使うさ。だがお前は肉体による直接攻撃にこだわりすぎて、戦いの趣旨を忘れた。その結果が今のザマだ。だから」
ヴァルカンが指をパチリと弾くと同時に、龍野を包む炎が消えた。
「今みたいになるんだよ。実戦なら死んでいた状態に、な」
龍野は下唇を強く噛みながら、ゆっくりと立ち上がった。
「確かに俺が甘かったです。認めましょう。その上で」
ヴァルカンを睨みながら、拳を構え直す龍野。
「勝ちを拾わせていただきます」
「やってみな。次は死ぬ寸前まで焼いてやる」
ヴァルカンがM4を構え直す。
龍野はヴァルカンが構えたのを見届けると同時に、駆け出した。
「はあっ!」
ハンドガードを抑えていた左手に拳が命中。ヴァルカンがライフルを落としかけたのを見て、左太ももに蹴りを食らわせる。
「まだまだっ!」
この一撃で足元に落ちたヴァルカンの銃を奪い、引き金を引く。
「!?」
が、弾が出ない。
直後、ヴァルカンがタックルを食らわせてきた。
「M4に目を付けたのはよかったがな!」
「ぐっ……!」
避けきれずに食らってしまい、仰向けに転倒する。
「残念だったな、こいつは俺のような『炎』じゃないと扱えねえんだよ。お前は『土』だから、魔力の性質が合わないせいで動作しねえんだ。まあ言うなれば、単三電池を必要とする道具に単四電池を入れても動かない、って感じだな」
「……(なるほど……わかりやすいな)」
「で、どうした? まさかタックル一発でへたばるほどヤワじゃねえだろ、お前?」
「ええ。あのくらい、何てことはありません」
龍野は近距離を保ちつつ、魔法陣を展開した。
「仕切り直しといきましょう!」
魔力弾を連射。障壁で全弾を封殺するヴァルカン。が、ここまで龍野の予想通りだった。
だが、抜かりなく防御の構えを取るヴァルカン。
果たして――龍野の放った拳は障壁を砕き散らし、その勢いのままヴァルカンのガードすら破る。
胸部に直撃した一撃は、容赦なくヴァルカンを吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
踏みとどまることが出来ず、数メートル程飛ばされたヴァルカン。更にたたみかけるため、距離を詰める龍野。
「はあっ!」
掛け声と同時に、右、左の順に素早く両拳を振り抜く。態勢を崩しているヴァルカンは、防ぐこと叶わず後方へ押し込まれた。
「もう一撃!」
とどめにドロップキック。
流石にこの連撃には耐えきれなかったのか、ヴァルカンが仰向けに倒れた。
「やるな……今までの奴等よりは強い!」
しかし、立ち上がった後に血痰を吐く。
そして、龍野に戦意を告げた。
「俺とて伊達に何年も傭兵をやっていないんでな! 悪いが、まだまだやらせてもらう!」
M4に魔力を込め、射撃を再開する。
龍野は再生した障壁で弾丸を防ごうとするが、予想以上の威力に障壁がきしみ始めた。
「さて……。そろそろブッ壊れるところかな?」
敢えて連射しないことで反動をコントロールしつつ、的確に障壁に命中させるヴァルカン。
(ちっ……。多少強引に前に出ねえと、一方的な戦いになるな……!)
龍野は多少のダメージを承知で、前に出ようとする。
(行くしかない!)
だが一歩踏み出した瞬間に、銃剣が目の前を掠めた。
(!?)
さらに目の前に拳が迫る。反射でかわすも、死角から腹部への一撃をもらってしまった。
「ゲホッ……!(しまった、油断した……!)」
加えて蹴りまでもらい、大きく飛ばされた龍野。
「今お前がやった戦術だ。まったく、便利なものだな」
そう。今のヴァルカンの攻撃は、龍野の方法をそのまま取り入れたものである。
「まだ行けるだろう? そうすぐには、終わらせないぞ」
「ええ。これしきでへばるものですか」
その後、訓練は十七時半まで続けられた。
*
結局龍野は善戦したものの、最終的には床に大の字になって倒れるハメになった。
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