3‐2
「なんでっ……!?」
恐ろしさに悲鳴を上げそうになり、ルイは反射的に自らの口を塞いだ。
人の動きが止まる?
そんなことがあり得るのか?
否、あり得るわけがない。
自分の身体が芯から震えているのがわかる。
恐怖に苛まれながらも———これは習慣だろうか———日々の生活で研ぎ澄まされたルイの身体感覚は、もう一つの異変に気づいていた。
音楽が聴こえない。
日々大学中に、いや、国中に途切れることなくあふれているはずの音楽が、無くなっている。
落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせながら、ルイは空中をあてもなくまさぐった。
いつも自分の皮膚を震わせるはずの音楽をとらえようと、祈るような気持ちで全ての感覚を研ぎ澄ませる。
だが彼の皮膚に残ったのは、先程から肌を不快に刺激する痛痒さのみであった。
耐えきれずに楽屋を飛び出すルイ。
異様な空間に飲み込まれてしまいそうな気がして恐ろしかった。
つんのめるように外に繋がる扉を開け、勢い余って地面に手をついた。
頬を撫でる風の感触がうれしくて、思わずルイは涙ぐんだ。
むさぼるように外の空気を吸い込み顔を上げると、少しはなれたところに二人の男性の姿が見えることに気づいた。
(誰かいる……! よかった!)
ほっとして駆け寄ろうと立ち上がったが、近づくにつれ状況を理解したルイはその足を止めた。
そこにいたのは、アルモトニカ国王のジョージ11世と、見知らぬ初老の男性であった。
「なんっ……なんでっ……!」
国王の深紅のマントが風にはためく。
しかし室内のリューリスたちと同じく、彼らの身体、表情は、ぴたりと動きを止めてしまっていた。
精巧すぎるマネキンのような不気味さをまとった彼らに、ルイは今度こそ口を突いて出る悲鳴を抑えることができなかった。
「う……うわあああああああああああああっっっ!!!!!」
躓きながら、ルイは闇雲に走った。
肌に触れる空気が、痛痒さを増していく。
我慢できず引っかいた箇所に、赤く血がにじんだ。
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