3-3



(誰かっ……誰かっ!!!!)


無我夢中で走った末に、ルイは大講堂前にある中央広場にたどり着いた。

大講堂の扉は既に大きく開かれていて、我先にと中に入ろうとする生徒たちを、チャイコフスキーが自慢の大きな体躯で押し留めようと腕を広げている。

爽やかな陽気の中、中央広場の木陰では発声練習をする者がおり、ベンチでは大学の名物猫である黒猫のノノが、大きく体を反らせ伸びをしていた。

少し特別感のある、しかし日常の風景だ。



誰一人として、微動だにしていないこと以外は。



どくん、どくん、と脈打つ自分の鼓動を聞きながら、ルイはよろよろと歩き出した。

何か一つでも、正常なものを探したかった。

人混みの中に笑顔の学友を見つけ、すがるような思いで肩を掴んだ。


「ふ、フェルディナント!」


はたして、ブラームスと同じように友人の身体がどさりと倒れた。

笑顔のまま虚空を見つめている様子が、不気味さを増していた。

ルイの頬にボロボロと涙が落ちていった。

友人の笑顔から顔を背け、ルイはまた当てもなく歩をすすめた。

どうすればいいのかわからなかった。




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