【第3話】革命の一音
3‐1
(……ん?)
ルイはふと顔を上げ、不思議そうに辺りを見回した。
今までに感じたことのない感覚が皮膚を走っていた。
目に入るものには特に異変は感じられない。
古めかしい壁掛け時計は時を刻み、窓から差し込む陽光は先ほどと同じく部屋の中を穏やかに照らしている。
その中で会話をする三人のリューリス。
笑い話でもしているのだろうか、モーツァルトが歯を見せて笑っていた。
その口元を注視し、ルイは首をかしげた。
唇が動いていない。
それだけではない、手も、足も、体も、全ての動きが止まっているように見えた。
人が会話の中で笑ったり笑顔を見せるとき、動きが現れるのは顔だけではない。
肩や膝を揺らしたり、首を振ったり、全身に何かしらの動きが出るはずなのだ。
それなのに、モーツァルトは微動だにしていなかった。
写真のように、その瞳は一点を見つめたままであった。
思い切ってモーツァルトに近づき、その顔を覗き込むルイ。
はたして、いきなり目の前に現れたルイに対して、彼はなんの反応も示さなかった。
声をかけても、顔の前で手を振っても、モーツァルトは瞬き一つ返さない。
その異変は彼のみならず、ブラームスも、そしてバッハも同様であった。
電池の切れてしまったロボットのように、彼らはそこに静止し続けていた。
背筋が寒くなり、ルイはブラームスの肩を揺さぶる。
「先生? ブラームス先生! どうしたんですか!?」
首ががくがくと揺れ、高い鼻に乗った眼鏡がずり落ちる。
生徒が教師の肩をつかむなど、普段のブラームスなら激怒しているはずの行為だ。
それなのに彼は眉根の一つも動かさず、ついにはその場にどうと倒れてしまった。
じっと腕を組んだまま、まるで切り倒された樹木のように。
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