2-11


「優秀な生徒とはこれからが楽しみだ知っておるかもしれんが、一応名乗らせてもらおう。

我輩の名は、ヨハン・セバスチャン・バッハ。

ランゲ・リューリスなどと仰々しく呼ぶ者もおるようだが、ただの一介のリューリスに過ぎん。

歳だけは人一倍食っておるがな」


茶目っ気たっぷりにウインクをしてみせたバッハに、ルイの口元も思わず緩む。

しかし、バッハの背後でブラームスが物凄い形相をしていたため、彼は崩れそうな表情を一生懸命我慢しなければならなかった。


「そういえば、国王様はどちらに?」


ルイが人知れず悪戦苦闘している横で、モーツァルトがバッハに尋ねた。


「講演の前に学内を見て回りたいと出て行きおった。

一応ヨーゼフについて行かせたが……まったく、ジョージの出たがりにも困ったものだ。

今日だって最初は我輩一人の予定だったが、いつの間にか付いてくることになっていてな」


「お若い頃から変わりませんね」


おかしそうに笑うモーツァルトとは対照的に、ブラームスがフンと鼻を鳴らした。


「王たるもの、もっと厳粛さを纏ってもらいたいものですな。

あれでは威厳も何もあったもんじゃない」


バッハが声を上げて笑った。


「まあ許してやれ!

ジョージのおかげで国内の風通しが良くなっていると言っても、過言ではないのだからな」


次第に膝を突き合わせアルモトニカの現状について話し始めたリューリスたちを見て、ルイは邪魔にならぬよう静かに後ろに下がった。


(僕、さっきまでランゲ・リューリスとお話ししてたんだ……!)


興奮に高鳴る鼓動を感じる。カールに話したらなんと言ってくれるだろう。

親友の顔を思い浮かべると同時に、ルイは自嘲気味に笑みを浮かべた。

嬉しいこと、面白いこと、悲しいこと。

そんな誰かに話したくなる出来事があった時にルイが思い浮かべるのは、いつだってカールのことなのだ。

講演が終わったらカールを探しに行こう、とルイは思った。

今日の午後は授業もレッスンもなかったはずだ。

数少ない大切な友達を、失いたくはなかった。

ふと痒みを感じた頬をぽりぽりと掻きながら、カールになんと言おうかとルイはぼうっと思いを巡らせた。

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