2-9
ドアが開いてすぐ、ルイはまずその目に吸い寄せられた。
深い慈愛に満ちた、やさしく撫でるような眼差し。
そのあたたかな金色に魅入られたかのように、ルイはぼうっとその瞳を見つめ続けた。
今まで出会ったことのない、なんとも形容し難い瞳であった。
よく見るとその瞳の持ち主はとても大きい身体をしていたが、そこに威圧は一切感じられなかった。
彼に会った瞬間に、ほとんどの人間はきっと疑いなく理解することができるだろうとルイは思った。
音楽への愛を。
国への愛を。
そして彼がその礎を守ってくれている存在であることを。
この人が、ランゲ・リューリスなのだ。
今のアルモトニカの礎を築いた音楽の父が、自分の目の前にいるのだ。
「ベートーヴェン! なんだその態度は!」
突如皮膚を振るわせた怒号にルイはびくりと身体を直立させた。
さらりとした銀髪を逆立てんばかりに憤ったブラームスが、こちらを睨み付けていた。
丸いメガネの奥から燃えるような目をのぞかせながら、そのリューリスは再び声を荒らげる。
「偉大なるバッハ先生を前に敬礼のひとつもできないのか!」
「も、申し訳ありません! あの、あまりの感動に、その……」
「もごもごするんじゃない、はっきり話せ! その年で礼儀のひとつも……!」
「止めないか、ヨハネス」
窓辺に佇んでいたバッハが静かに口を開いた。
決して大きくはないが、よく響く声だ。
チェロの音色によく似ていて、ルイはお腹の底に不思議な温かさが広がっていくのを感じていた。
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