2-7
外に出ると、昼休みにはまだだいぶ時間があるにもかかわらず、大講堂の前には既に大きな人だかりができていた。
荘厳な装飾の施された扉の前では、モーツァルトと同じくリューリスであり且つ大学教授のチャイコフスキーが、仁王立ちでこっそり会場に侵入する不届き者が現れぬように見張っている。
その熊のような巨体は、遠目でもよく目立っていた。
期待を抑え切れぬ様子で扉が開くのを待っている学友達の横を通り過ぎ、ルイは舞台裏につながる裏口へと向かった。
ドアをノックをしようと手を伸ばすと、不意に中から扉が開きルイは慌てて後ろに下がった。
出てきたのは、同学年で且つ今年唯一のリューリス科の生徒であるリヒャルト・ワーグナーであった。
彼は少し驚いたようにルイの顔を見たが、そのままふいと顔を背け横を通り過ぎていく。
会釈くらいできればよかったなと少し後悔しながら、ルイはみるみるうちに小さくなっていく背中を見送った。
「お、来たか! 早いな!」
開かれたドアからひょいと顔をのぞかせたモーツァルトに促され、ルイは慌てて一礼して中へと足を踏み入れた。
「さっきワーグナーをバッハ先生に引き合わせたところなんだ。本当はあいつに雑用やってもらう予定だったんだが断りやがって……いやだね、愛想のない奴ってのは」
モーツァルトの愚痴に相槌をうちながら、ルイは手のひらがじんわりと汗ばんでいくのを感じていた。
もうすぐランゲ・リューリスに会える。
音楽の父に会えるんだ。
ランゲ・リューリスが国内にいることはほとんどなく、一年の大半を全国を巡りながら音楽教育の普及に努めていて、最近では外国へと足を延ばすことも増えているらしい。
だからこそ彼の姿を直接見ることが今まで一度として叶わずにいたのだ。
長年の夢が想像を超える形で叶う喜びと興奮に、何度も深呼吸を繰り返すルイ。
そんなルイの横で、モーツァルトはくすりと笑みを漏らした。
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