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ランゲ・リューリスはその本名をヨハン・セバスチャン・バッハといい、現リューリス、そして歴代リューリスの中で最高齢のリューリスである。
その齢、なんと551歳!
一般国民の平均寿命141歳、リューリスの平均寿命259歳と比べても、その長寿は群を抜いていた。
彼が『ランゲ(偉大な)・リューリス』と呼ばれ、アルモトニカ史の4分の1を占める歳を重ねてこられた
バッハの保有するリュールの量は、国家音楽法施行以降2000年の歴史を誇るアルモトニカ史上最大といわれており、未だそれを超える者は現れていない。
その恵まれすぎたリュール故の浄化と若返りの作用は著しく、彼の見た目はいつまでも50代半ば頃にとどめられていた。
そして、彼がランゲ・リューリスとして崇められ続ける理由がもう一つ。
それが『
リューリスとして認められてからバッハが作った曲の数は、楽譜になっているものだけでもゆうに2500曲を超えている。
リューリスの一生の平均作曲数が200〜300であることから、長寿を差し引いたとしてもその数はずば抜けていることがわかる。
量もさることながらその質もまた素晴らしく、彼の音楽はどのリューリスが作る曲よりも多くのリュールを生み出した。
基本的に、曲そのもののリュールの生成量はその難易度に比例すると言われている。
簡単に言えば、難しければ難しいほどにリュールの生成量が増えるのだ。
もちろん弾き手(ヴィルトーなど)の演奏の質にも左右されるため、単純に難しければ良いという話でもないため、政府は毎回年の最後にヴィルトーの平均的な腕前とリューリスの曲の難易度をすり合わせ、次の年のためのマニュアルを編成している。
しかしバッハの曲は、目を見張るほどの難易度ではないにも関わらず、現代においてなぜかどの曲よりも多量なリュールを生成した。理由はまだ解明されていない。
また、リューリスの祖であるヘンデルの音楽からさらに複雑な作曲方法をいくつも編み出し、なおかつそれを論理的にテクニックとしてまとめたのもバッハであった。
それまで、ヘンデルの真似をして曲を作るしかなかったリューリスの世界に、新しい風が生まれた瞬間だった。
バッハ以降のリューリスは皆、バッハの作曲テクニックをベースに勉強してきている。
それによりさまざまな彩りをもった音楽が劇的に増えたことも、バッハの築いた偉大なる功績であった。
国民からは、【音楽の母】ヘンデルに並び、【音楽の父】として深い敬愛を抱かれている。
そこまで多量なリュールを生成するのであれば国民が全員バッハの曲を弾けば問題は解決しそうでもあるが、そのバッハの曲持ってしてもリュールの需要量には追いついていないのが現状であった。
そのために、未だ政府はより良質な曲の作成をリューリスに急がせ、ヴィルトーにはより洗練されたテクニックの習得を義務付けている。
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ルイにとって、リュールを生成する量が多いかかどうかなどはどうでも良いことであった。
彼が心奪われたのは、その独創的で創造性に富んだ音楽そのものである。
緻密に組み合わされ計算された音楽の構成に、格調高く気品ある旋律。まさに完璧な音楽だった。
そうかと思えば時折人間らしいユーモアが顔をのぞかせ、聴く人に親しみを抱かせることも忘れない。
バッハの音楽を聴く度に、ルイはこの世に生を受けた喜びに満ちていくのを感じることが出来た。
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