2-4

耳の聞こえないルイが、一体どのように音楽を理解しているのか。

それには、音の正体である空気の振動が大きく関係している。

音楽とは、音の集まりのこと。

そして、その『音』には様々な音色というものが存在する。

音色にはそれぞれ独自の波形と空気の振動数があり、大きく捉えるとそれは楽曲を形作る旋律メロディ和音ハーモニーにも同じことが言える。

普通の人間はその波形と振動数を鼓膜で聴き分けるわけだが、ルイの場合は全身の感覚を使ってそれを感じ分けている。

時には口で味わい、

時には鼻で振動を感じ、

そして時には直に振動に触れて。


聴力以外の全ての五感を使い、ルイは音楽をいるのだ。

彼の両親が彼に遺した、偉大な贈り物である。

ルイにとっては、身体中全てが音楽を聴くための大切な器官の様なものだった。


人の言葉は唇を読まねばわからないが、音楽は違った。

空気を揺らすさまざまな音楽は、いつだって彼の身体を刺激してくれる。

あらゆる楽器の音、人の歌う声、演奏される曲。一つとして同じ響き方をするものはない。

ルイはそれらを音色の違いを明確に聴き分けることができていた。

彼にとって音楽とは、言葉よりもずっと雄弁なものであり、そしてこの世に存在するどんなものよりと、彼に生きているという実感を強く与えてくれるものであった。


そしてその忘れ難い幸福感は、ルイの心にいつも新たな欠片モチーフを残していくのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る