【第2話】ランゲ・リューリス

2-1

ルイには、2つの秘密があった。


一つは、隠れて作曲をしていること。

前述したとおり、この国ではリューリス以外が曲を作ることは何があろうと許されていない。

見つかった場合は即座に国外追放という重罰を受けることになる。


そしてルイはリューリスではなく、ノーツ音楽大学ヴィルトー科の学生だった。専攻はピアノである。

入学当初から優秀な成績を修め、その腕は現ヴィルトーのトップを凌ぐほどと噂されていた。

喜ぶべきことなのだ、本来ならば。

しかし、ルイにとっては作曲を許されない立場を浮き彫りにされているようで、苦しくなるばかりであった。


(まあ、ヴィルトーになっちゃえば作曲する暇もなくなるだろうし……いいことなんだろうな……)


そう視線を落としながら廊下を歩いていると、不意に後ろから肩をぐいと掴まれ、ルイはひゃあ、とも、わあ、ともつかない声を上げた。


「も、モーツァルト先生!」


「さっきからずっと呼んでるのに全然止まらねえんだから! ったく、無視するにもほどがあるぜ?」



立っていたのは、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトだった。

ノーツ大学で教鞭をとるリューリスの一人で、4歳までにピアノ、ヴァイオリン、フルートをマスターし、5歳を迎える頃には既に独自で作曲を始めてしまうという神憑り的な天才ぶりを発揮していたことから、『アマデウス《神に愛された者》』の名を国から授けられている。

楽しいこと、新しいことが大好きな気分屋で、明るい茶色の瞳はいつもキラキラときらめいている。

身長はルイほどではないがスラリと高く、髪の毛は後ろで一つに結び、服もセンスの良さを覗わせるものを身に着けていた。

不機嫌そうに眉根を寄せ睨みつけるモーツァルトに、ルイは慌てて頭を下げた。


「す、すみません先生、少し考え事を……」


「考え事をしてたにしてもあれに気づかんとはね。耳、悪いんじゃねえの」


ずけずけと辛辣な口調で言うモーツァルト。

背中を汗が伝うのを感じながら、ルイはぺこぺこと頭を下げ続けた。

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