1-4

「ちっ! こちとら毎日の仕入れや仕込みで寝る暇もねえってんだ、優雅に音楽なんてやってられっか! あいつらどうせ今日だっておれが仕入れた魚を昼飯に食うんだぜ!? 誰のおかげでうめぇ魚が食えてると思ってんだ、畜生!」


警官の姿が見えなくなったことを確認し、そう毒づいた魚屋の主人に、果物屋の女性がまあまあと宥めるように肩を叩いた。


「最近どうも様子が変だよねえ。前はリスタを強制されることなんてなかったのに……」


そう溜息をついた女主人に、魚屋が吐き捨てるように言う。


「無償でリュール作りの人手を増やそうって魂胆なんだろ。

本当ならヴィルトーやリューリスの仕事のはずなのに、なんでおれらがとばっちり食わなきゃならねえのかね」


魚屋は盛大に鼻を鳴らし、と同時にカールとルイの存在に気づいたようで、これまた大仰に顔を顰めた。

怒りが飛び火してきては困ると、彼らは急いでその場から離れる。

本当は気のいい人物なのだが、ここ最近はずっと機嫌が悪い。


「リスタをサボっただけで警官が出てくるのか、厳しくなったな。

ルイ、お前もいい加減に……」


そこまで言いかけ、ルイが自分の顔を見ていないことに気づいたカールはむっと口をつぐんだ。

自分がどれだけ危険な秘密を抱えているのか、わかっているんだろうか。こいつは。

花屋の女性の歌声に嬉しそうな顔をみせるルイを見ながら、カールは人知れず深い溜息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る