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カールの小言に、ルイはのそのそと紙を拾い集めながら、クマのできた弱々しい顔で微笑んだ。
「ほんと、カールでよかった。口から心臓が飛び出るかと思ったよ」
やれやれと嘆息するカール。本当にこいつは、呆れるほどに音楽のことしか考えていない。
てきぱきと手伝いながら、彼は自分の腕時計を指し示した。
「いいからさっさと準備しろって、置いてくぞ!」
「えっ、もうそんな時間!?」
慌てて着替え始めた親友の背中に、カールは下で待ってるからなと一応声をかける。
いつものように一段飛ばしで階段を駆け降りると、階下でこの下宿屋の女主人であるハンナが腰に手を当てて待ち構えていた。
「またあの人は寝坊ですか? 毎日毎日本当にもう……! ドアの外から何度も声をかけたっていうのに!!」
ぷりぷり怒りながら台所へ戻る彼女の背中に詫びながら、でもそれじゃあ無理だろうな、とカールは密かに苦笑した。
あいつ―――ルイは、『声』だけではだめなのだ。
玄関で待つこと5分。
一向に降りてくる気配のないルイに痺れを切らし、カールは外から青年の部屋の窓を見上げる。
案の定、窓辺で通りにあふれた様々な音楽にうっとりと浸っているルイの姿が見えた。
さすがに苛立ちを隠せず、カールは外壁をバンバンと叩く。
「ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン!!
もう先に行くからな!! 知らないからな!!」
ああっ、待って!という声を後頭部で聞きながら、カールはすたすたと賑やかな通りに向かって歩き出した。
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