怖い話 綺麗な月 その四

無「たしか太宰治でしたか、アイラブユーという英語を翻訳する時に」

無「月が綺麗ですね……という文学的な表現にしたと読んだことがあります」


ア「夏目漱石でしょう」


無「ああ、そうでした、そうでした」


ア「実際は夏目漱石はそういう翻訳をしていないようですが」


無「そうなんですか?」


ア「夏目漱石を研究している学者も見たことはないといいますし、図書館の司書が出典をさがす作業をしても見つからないとか」

ア「いまのところ最古の出典は、第二次世界大戦後のSF小説家が有名な話として書いたものです」

ア「しかし同時代にそのような話が出まわっていた形跡はない」

ア「つまり作家が思いつきで作った嘘なのかもしれない」


無「つまり……これが不真面目な怖い話ということですか?」


ア「はい、これもひとつのフォークロア」


無「フォークロア」


ア「日本語でいうなら都市伝説というわけですね」


無「ちょっとした思いつきで作家が書いたことが、事実のように定着してしまう」

無「それはたしかに怖いといえば怖いですが……」

無「それが自分個人と関係あるのでしょうか……?」

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