災厄の始まりと金星人の少女と その二

 次のコンビニは二十メートル先にある。

 近くに駅があって、この街にしては人通りが多いとはいえ、どう考えても過当競争だ。

 もちろん客が心配してやる義理はないけれど。


 自動ドアが開くとともに、ノイズ混じりのメロディがながれる。

 牟田口は自動ドア脇の本棚に少し目をやった。

 薄っぺらい作りのワンコイン本が並んでいる。


 ワンコイン本のつらなる最下段に、うさんくさい宇宙人を特集する新刊を見つけた。

 ペラペラの表紙をめくると、有名な写真や想像図のグラビアページが出てくる。どれも珍しくない図版だし、紙質も画質も良くない。

 ページに入れこむためにトリミングして全体像がわからなくなったり、ひどい時には宇宙人の上にキャプションをのっけている。

 まあ、どうせ目新しい情報がのっていないことはわかっている。こういうワンコイン本では、とっくにインチキとばれている写真や噂話を、平気でコラムやマンガにしているものだ。


 ただ、コンビニ向けにワンコイン本をおろすのは、良くも悪くもガチなオカルト出版社ではない。手あたりしだいに知識を持っているサブカルライターへ声をかけるから、コラム内容は玉石混交。

 なので、意外なひろいものもあったりする。ワンコインなりの内容は期待できるのだ。


 本文ページをパラパラめくり、目あてのコラムを見つけた。

 よく牟田口がコメントを書き込んでいるオカルト検証サイトが、今度ワンコイン本にコラムを寄せるという告知を出していたのだ。

 とりあげられているのは、異星人を解剖しているという有名な映像。

 それはアメリカの従軍カメラマンが一九四七年に撮影したとされる16ミリフィルムであり、一九九五年に世界中でセンセーションを巻きおこした。


 モノクロの映像に出てくるのは、あおむけに横たわる全裸の異星人と、白い防護服を着た人間たち。

 異星人は体毛も性器もなく、目と口を開いたまま微動だにしない。男たちは防護服で顔も体の線も隠していて、年齢も性別もわからない。

 防護服の者たちは異星人の肉体をメスやハサミで切り、内臓をとりだしていく。カメラはその光景を淡々と映して、ところどころでグロテスクな臓器をクローズアップする。

 今では「宇宙人解剖フィルム」あるいは発表者の名前をとって「サンティリフィルム」と呼ばれている。


 ……しかし、テレビの特別番組では今もたまに使われているが、すでにインチキということがオカルトマニアに結論づけられている。

 従軍カメラマンの存在が確認できないこと。一九四七年の米軍はすでに重要なフィルムをカラーで撮影していたこと。

 それに貴重な記録のはずなのに、重要な臓器をアップで映す場面になるとピントがボケてしまうこと。

 ハサミが死体の脂で滑らないための解剖医らしい持ちかたをせず、まるで素人のようだということ。


 そうした疑問点を脳裏に浮かべながら読み終わり、牟田口は購入に迷った。

 期待していたほどページ数をもらえていない。

 あのサイトは色々なインターネット情報を集めて、それとは少し違う角度の異論をつけくわえることが売りだ。

 根拠にしている資料を見せる字数が足りないと、どうしても説得力が落ちる。

 しかしそれでも、フィルムが本当は何を映しているかという説の目新しさと、それを強引に成立させた理屈には感心した。

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