ここにある新しい始まり


 子供の頃このことなんて、もうほとんど覚えていない。能力の使いすぎか何かである。

 高城郁美という名前と、周りの人のことを少し。

 歳をとるというか、この記憶操作能力を使う度に。私は何かを忘れていく。

 そのうち、私は何者なのかすらも忘れてしまうのだろう。

 私は今、案冴寮という所に住んでいる。引っ越してきてまだ1週間。

 ここには、5人の同じ学校の人が住んでいる。

 クラスメイトで友達の、飯田 直子。

 一つ上の頼れる先輩、航縫 幸来。

 一つ上の面白い先輩、伊藤 久。

 二つ上のお姉さん、西尾 楓。

 そして・・・

 

 

 ※

 

 

 都心伝説だとかオカルトってやつは、どこにだって溢れている。

 ただ話さないだけなのかどうかはしらないが、人が話すとこにそれは存在すると思う。

 それは、あまりに不確定なもの。

 そもそも、都市伝説やオカルトといった類のもの全てが不確定なのだから。そんなことを言っても切りがないのだ。

 だが、実在するものもある。

 今携帯で開いている、「束暮町に存在する都市伝説集」。

 ここには、この町「束暮町」に溢れる不思議な話や怪奇現象等が綴られたサイトだ。

 ここの3項目目に書いてある、「記憶操作の職業」。

 詳細はこうだ。

 束暮町には夜な夜なとある学校に入り込み、店を開いている者がいるという。依頼者は、その学校の生徒、先生。他校からも依頼を受けているそうだ。その内容が、自分の記憶の操作だという。

 この記憶操作を行う奴だが、この間俺が暮らしている案冴寮に引っ越してきた。そいつは俺を、記憶操作職業秘密死守の助手にした。破った場合は、俺の記憶を消して存在を消すと。脅しまでかけてきやがった。

 しかし、現実では到底ありえない景色を何度も見せてもらい。能力を使用する度に自分の記憶を無くしていくという、涙を流した心の叫びを聞いてしまい。

 ひこうにもひけない道に入り込んでしまった俺、阿佐ヶ谷 湊な訳だが。

 

 「まぁーた、見てるのか?」

 

 教卓あたりから飛んできた数学教師 郷田先生の声は、俺の耳右から左へ貫通させていくのであった。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 授業のなり終わるチャイムがなると、教科書等を机の中にしまう。堂々と携帯を見ながら机に顔をつける。

 

 高城郁実

 あいつが俺の前に現れて1ヵ月。

 あの景色と不思議体験に巡り会う為がために、彼女の助手名目で付いているわけだが・・・。

 あれ以降、ちょろちょろと記憶操作の依頼もこなしていた。場所は基本的には、案冴寮 高城郁実の部屋である。

 ただ、やはり学校のようなわかりやすい位置でないのと。あの校内侵入騒ぎの事件以降、外回りの徘徊をする教師が出てきた。つまり、外に出たとしても見つからないよう動く必要があるわけだ。

 それにしても、ほかの学校にもあったと言っていたが。こんなようなことをしている奴が他にもいるのかと思うと。俺の、好奇心が・・・。

 

 案冴寮に戻って自分の部屋にいるとノック。

 俺はベッドの上で携帯を眺めていた。

 

 「よっ!」

 

 俺の目の前に突然顔を出したのは伊藤久だった。

 

 「だから、勝手に入ってくんなって」

 

 これくらいは日常。もう、驚くこともない。

 

 「最近反応薄くな~い?」

 

 「毎度そんな登場のされ方されたら、嫌でもなれないと毎度アクションとるのがだるいだろ?」

 

 「まぁ、俺もそろそろ自重しないとな。ゴールデンウィークの宿題とかある?」

 

 「は?お前は一体何言ってるんだ?」

 

 どうやらこいつ、ゴールデンウィークの宿題をおっぽりだしたらしい。

 ゴールデンウィークは実家に帰るという行動をするやつは、楓さんと幸来くらいだった。

 だが、久よ。お前この寮で何をしていたんだ?俺は宿題を学校で、休み前に終わらせてきたぞ?休み中は高城に付き合わされて色々やってたぞ。高城の宿題も、主に国語は見たというかやらされたがやってたぞ?お前何やってたんだ?

 なんて聞くのも面倒に・・・。

 結局宿題のプリント、まとめてある宿題の書かれたノート一式を渡してしまった。

 ベッドを占領され、いつも通り寝転びながら写す久。

 はぁ。

 呆れるな。

 コンコン。

 

 「ひさくん、お風呂入ってー」

 

 楓さんの声が聞こえた。

 

 「やべぇ。部屋行かれちゃったか」

 

 「そりゃ、確認なら行くだろうよ。早く行きな」

 

 久は、慌てて俺の部屋をとびだしていった。扉の向こう側で笑顔で待ち構えていた楓さんに、ものすごく恐怖を感じるものの。

 俺は携帯を眺めた。更新のボタンを押して、確認したところ。

 

 NEW 魔法使いのアジト

 

 これはまた、面白そうな。

 

 

 ※

 

 

 魔法使いといえば、よくゲームに出てくる女の子がとんがり帽子と杖を持ってるイメージ。様々な呪文とかで遠距離攻撃を仕掛け敵キャラを粉砕。みたいなのが頭に浮かぶわけだけど。

 

 「なんか、悪いイメージしかないですね。悪巧みにしか使えそうにない感じですよ。魔法」

 

 食事を取り囲む円卓に6人。

 俺から右に隣が久。隣が幸来。隣が楓さん。隣が高城。隣がナオちゃん。

 楽しい食卓には、俺が振った魔法使いの話をしていた。

 

 「私は可愛いイメージしかないわね。でも、昔アニメで見てた童話の魔法使いはポッチャリしてた気がするわね・・・」

 

 「私もそんなイメージね。っていうか、なんで魔法使いなの?」

 

 楓さんと幸来からは、そんな回答が。

 

 「まぁ、いいだろ?で、久は?」

 

 「そうだな?ソシャゲとかでよく見るのしか思いつかんな。でも最近のは見た目関係ないからな」

 

 確かに。

 

 「そうゆうの疎いんですよ。ごめんなさい」

 

 高城はそう言った。

 というか、高城はしょうがないんじゃ。おそらく憶えてないだろうし。子供の頃の記憶は、ほとんど無いって聞いたしな。

 

 「で、その魔法使い。意見のいいあいに、なんかあるの?」

 

 幸来に話を戻されたが、華麗にスルー。

 逃げるかのように食器を片付けて部屋に戻った。

 

 コンコン。

 

 21時20分。

 俺は、高城の部屋のドアをノックした。

 顔を出した高城は、笑顔で出迎えてくれた。だが、この笑顔未だに慣れない。どう見ても裏があるような、あくどい笑顔だ。

 

 「湊さん、今日は依頼が2つきています。なので・・・」

 

 「あぁ、昨日聞いたからな」

 

 「はい。でも、すみません。あんまり憶えてなくて」

 

 「いいさ。素で忘れてても怒りゃしない」

 

 俺の手にはペットボトルの水が2本。

 事前に依頼されているものなら、交友準備をさせられる。

 どうも、能力を使う度に「酔う」。まぁ、不思議体験だから、説明しずらいところがある。船酔いとかと、また違うような感覚。ただ、少し気持ち悪くなる。高城は俺の倍はキツそうにするため、こうゆうのないとくたばるんじゃないかと思うくらい酷いのだ。

 

 がら

 

 窓が開く音がし、そっちを見ると少年が足を跨ぎ高城の部屋に侵入してきた。

 

 「えーっと、タカキヨさんですか?」

 

 「はい」

 

 相変わらず、意味のわからん名前だな。この依頼者たちはハンドルネームを使っているが、俺には意味がわからんな。そもそも、チャットやらネトゲやらソシャゲってやらないからな。

 

 「で、依頼の内容が?」

 

 「つい最近、見てはいけないものを見た気がするんです」

 

 「「気がする」ってのは?」

 

 最近は依頼者の会話に普通に入って会話するようになった。こいつらの会話だけだと、話が追いつかない時があるからな。

 

 「はい、それがよく覚えなくて・・・」

 

 「それを思い出したいと?」

 

 「はい」

 

 記憶の蘇りは依頼回数が少ない。

 ちなみに、俺が知る1ヵ月間では1回しかなかった。

 

 「でも、見てはいけないものなんだろ?」

 

 「どうしても思い出したいんです。何か、大事なもののような気がして・・・」

 

 大事なのに見てはいけないものってなんだ?


 「わかりました。

 ですが、この世には思い出さない方がいいこともあります。

 最終確認です。本当にいいですか?」

 

 「・・・はい」

 

 少しためらって返事をしたタカキヨ。

 

 「じゃ、やりましょう」

 

 「わかった」

 

 そう言うと、タカキヨを椅子に座らせ肩に手を乗せた。

 俺も、その後に立って高城の肩に手を乗せた。

 

 「出来るだけ、その情景を思い出してください。

 思い出せないところだけを、私が引っ張り出します」

 

 記憶の蘇りには、必要なものが2つ存在するらしい。

 1つは、記憶持ち主の思い出す内容の情景。人間は忘れていることを思い出す時、自分が置かれている状況を把握しているが固定されたある部分を思い出そうとすると、思い出せなかったり自分が都合のいいように変換してしまうらしい。

 もう1つは・・・

 

 「じぁ、行きます」

 

 目を閉じて高城の声が聞こえるまで目を閉じたまま。

 

 「大丈夫ですよ」

 

 高城の声に反応して目を開けると。

 あの不思議空間が半透明に白く、黒点がチョロチロ見えた。

 

 「ここは、まだ話せるな」

 

 今まで見てきた中では、見回りの麻生さんが最高に黒かったが。最近は、このくらいなら話せるだろうという感覚がついてきた。

 

 「では、行きましょう」

 

 忘れ去られたタカキヨの、見てはいけない大事なことの記憶を探して泡をかき分けていく。進んでいくと、浮きながら沈むという動作を繰り返している泡があった。

 

 「おそらく、これですね」

 

 記憶の蘇りにもう一つ必要なものは、忘れて思い出そうとしている物やワードを本人が忘れているかどうか。忘れている物やワードが、引っ張り出しやすいという。

 

 「じゃ、行きましょう」

 

 記憶の削除と同じで泡の中に入ることが必須となる訳だ。この動作は能力者が見ることでアクションが起こるとはのがこの1ヵ月で分かったことだ。高城が見た記憶が、消えたり蘇ったりの区別はつかないが・・・。

 

 

 ※

 

 

 ここは?

 大きな町並み、広場みたいなスペース。

 ん?

 人影が・・・。

 ビルの隙間に・・・。

 行こう。

 誰がいる?

 

 うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉ。

 

 

 ※

 

 

 はぁー。はぁーー。

 ある広場のような所に立っていて周りを見ていたら、黒い服を身にまとったやつが何かを背負ってビルの間に入っていくのが見えた。見に行ったらその黒い男は、人の両手をYの字に広げ大きな釘で刺して固定しているところを見た。

 しかも、吊るされてた人間はこの「タカキヨ」と名乗る人。

 って、いない。

 目の前には倒れてる高城の姿。

 とりあえず、高城を起こして水を飲ませて落ち着かせた。

 

 「なんだんだったんでしょうか・・・」

 

 高城はぜぇーはぁー言いながら、そんな言葉をこぼした。

 

 「あれ、「タカキヨ」ってやつ本人だよな?」

 

 「高田清春さん・・・。もう死んでました・・・」

 

 「あの記憶で死んでいたって分かったのか?」

 

 「はい。湊さんは、おそらくあの記憶では広場のような所から始まったんじゃないですか?」

 

 「そうだ。なんでわかった?」

 

 「あのビル、というかマンションですか?麻丘学園の寮です」

 

 麻丘学園ってこの町の3番目にでかいって有名な学校だったはず。

 

 「私があの記憶で始まったところは、ビルの隙間からです」

 

 「ってことは、黒服の奴誰か見えたか? 」

 

 「いえ、顔が黒いぼやみたいに見えて何も見えませんでした。その後高田さんが見えたので、おそらく作られた記憶なんだと思いました。湊さんが見てた光景は作られた高田さんの記憶です・・・」

 

 「全く意味がわからん。ちゃんと、日本語で話してくれないか?まず、その高田清春って誰だ? 」

 

 「高田さんはタカキヨさんのことですよ」

 

 「毎度毎度、いつ名前を引っ張り出してるんだ?」

 

 「いつだっていいじゃないですか・・・。そんなことより、質問の答えです。高田さんが吊るされてたのが本物で、湊さんが見た光景は、作られた高田さんの記憶から覗いたもの何です」

 

 「でも、作った?何のために?誰が?」

 

 「理由はわかりませんが、おそらくあの黒服の人が作ったんだと思います。湊さんは見れていないと思いますが、あの後。あの黒服の人は、高田さんの周りに高田さんの血で円陣を書いてましたよ」

 

 「円陣?」

 

 いくつかの謎が残ってしまった。

 誰がなんのために高田清春という人物をそうゆうふうにしたのか?

 俺達の前に現れた高田清春は何者なのか? 

 あの黒服の奴は何者なのか・・・。

 

 俺は、この件を調べることに・・・

 

 ガラッ

 

 あっ、次の依頼人が来た。

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