苦い自己満足
俺達は静かな町にでた。
登校や下校のの時はうるさいほどの生徒の声が聞こえるこの町で、物音ひとつなりそうにない静寂の夜。
そんな中、男女人組が肩を並べて歩いてるって。
んなのは、どうでもいい。
俺達は学校に向かう。
「湊さん」
「ん?」
改まった声が聞こえたので、高城の方を見た。さっき見た時の、泣き顔が頭から離れない。あの涙の中に、俺を揺さぶる何があったんだ。何かが。
「さっきのは、忘れてくださいね」
さっきってのは多分あの涙だ。
「そりゃ、できねぇかもな」
「ダメです。忘れてください」
忘れられるわけない。
「俺はお前に、記録係と秘密を守る助手を頼まれたからな」
そういうと、高城は頬が赤くした。焦ったように顔をそらしてきた。
少ししか触れてないが、高城郁実ってのはただの女の子なんだと。
「俺はお前のために、お前は俺のためにだろ」
そう、さっき約束したのだ。
お前の自己満足に手伝ってやる。そんで、俺の自己満足も手伝ってくれ
「えっ、何の話です?」
当の本人は忘れているのか聞いてないのか。
「まぁ、いいか」
「えっ、なんです?約束って」
返事したことに対しても、忘れられてたら困るな。なんて、思ったらダメなんだろうな。高城はほぼ無条件で、俺にそれをくれるんだ。与えてもらってるからには、俺も与えなきゃならない。
「ね、聞いてます?」
「あぁ、わり」
全く聞いてなかった。何の話だったけ?
そうこういってるうちに学校についた。
「行きましょう」
理科室に向かう。
「いつ来ても怖いです。夜の学校」
「お前、いつもビクビクしてんのか?」
どうやって、理科室まで行ってるんだ?なんか、歩いてる足すんげービクついてんじゃん。結構あるよな理科室まで。
「麻生さんに見つかった以降は、麻生さんの隣であるてました」
うわー、見回り大変だったんだろうな。
こんなベッタリ・・・。
いや、まて。
この状況。見回りの人に置き換えるんだ。
あの人結構歳いってる感じだったよな。
指輪は・・・今は、してない人も多いんだっけか。宛にならん。
でも、JKがこんなに密着してたら。
―――喜ばしいよな―――
まぁ、俺はどうでもいいんだけど。
気になってる女子より、気になってる都市伝説の方があるんだよな。
でも、忘れられない。あの涙が。頭から離れない。
気になってる女子。そうか、俺は気になってるんだな。
高城郁実が。
理科室の前。
理科室に入って電気をつけた。
「麻生さん、今日はいないのかな」
「その前に、一人いるんじゃないのか?」
「はい。・・・あっ、これ」
高城のポッケから出てきたのは、可愛らしい小さな手帳。
「これでいいんで、書いてくれます?」
多分200枚くらい挟まってる紙。中を覗いてみる。そこには、依頼者の名前依頼内容が書かれていた。
三山紗枝
卒業前に友達から「もの」を返すように言われた
その「もの」が思い出せなくて依頼された
卒業後の休み。私が思い出させたものを返せたようです
田代 翔太
見た目高校生
一昔いじめにあった記憶を消してほしいと依頼された
消した後はいい笑顔を見せていた
その後はどうなったのかわからない
それはしっかり書かれていた。
そして、7ページくらい過ぎたあたりからそれは曖昧に書かれ。
9ページ開いてからは、白紙だった。
次のページはペンの跡が残っていた。ひどく激しく書き殴った跡だ。恐らくそのページは破って捨てたのだろう。
自己満足
どっからどこまでがそれなのか。
理科室の扉が開いた。
パジャマ姿の女の子が入ってきた。
「えっと・・・」
高城が携帯を取り出して画面を見ながら確認を図る。
「エンポーさん。で、間違いないです?」
エンポー?
「はい 」
その女の子はエンポーと名乗った。
誰だよエンポーさん、とか思ってしまったじゃん。
「どうぞ、座ってください」
高城は自分の家にいるかのような対応をする。その指示に従って、席に座るエンポーさん。
「驚きました」
突然のエンポーの一言に、?を浮かべる俺。
「もっと、大人の人がやってると思ってました」
「よく言われます」
照れながら、話す高城。
「それじゃ、依頼の内容の確認をします」
携帯を机の上に置いて、書いてあることを読み上げる高城。依頼の内容はこうだった。
小学校の頃に受けた虐待の記憶の削除。
トラウマってもんは、忘れたくても忘れられないもんだ。それは、人を成長させるものでもあるけど人を立ち止まらせるものでもある。
「今は、ひとりで暮らしてますか?」
「いえ。今は、母と」
「その、暴力を奮っていたのは・・・?」
「・・・父です」
顔色を変えて話したエンポーさん。
「記憶削除後に、お父さんとお会いする時は気おつけてください。強く残っている記憶を削除する時、その人物の声や動作だけで思い出してしまあう事があるので」
「・・・わかりました」
息が荒い。
明らかに平常心を失っている。
「おい、大丈夫か?」
俺はエンポーさんの傍により、深呼吸させる。
「落ち着いたか?」
頷いた。
顔色が良くなっていく。
「湊さん、始めます」
真剣そのものの顔で高城がこっちを見ていた。
「俺は何すればいい?」
高城は立ち上がって、エンポーさんの後に立った。
「エンポーさん、楽にしててください。港さんは私の肩に手を」
肩に手を置くのか?
言われるまま、肩に手を置いた。
「ちょっと痛いかもしれないですけど、我慢してください」
ん?
高城は、エンポーさんの頭に手をのせた。
「はじめますね」
目を閉じて。高城の肩の力が抜けていくのがわかる。
俺も目を閉じた
空間?真っ暗な空間。
目の前には高城の姿があった。
手招きされてそっちに向かう。
傍によると高城は口を開けた。
なんて言ってるのかわからない。
高城が指を指す。指す方向に無数の泡が舞っていた。
幻想的だ。
夢の中にいるみたいだ。
高城が一つの泡を指さして何か言っている。
俺の手を取ってその泡に潜る。
息が・・・。
※
おい、み・・・
声が聞こえる。
今まで聞こえなかった声が聞こえる。それも、知らない人の声だ。
み・・・。お前が・・・ぜん・・・・・・わ・・・
凄い痛みが走った。
周りを見ると、真っ暗な空間。
あれは、習字?
いた。
また痛み。
ぬいぐるみも見える。
うぅをぁ。
ひどく殴られている。
お前が・・・・・・
※
気がつけば俺は酷く荒い息と、顔中が汗まみれになったいた。
どうしてこんな事になっているのか。
目の前の高城を見る。
すごく顔色が悪い。
エンポーさんが机に向かって倒れていた。
高城は、エンポーさんの頭から手を離して俺の方に寄りかかって倒れた。
「大丈夫か?」
俺は高城を少し揺さりながら、声をかけた。
「・・・。水を。水道でいいです」
「お前学校の水なんか飲んで大丈夫か?」
かくいう俺もなんか飲みたい。
酷い喉の渇きよう。
「だいじょう・・・ぶで・・・」
高城から離れてビーカーに水をくんで高城に飲ませる。
呼吸が安定してきている。
俺も、別のビーカーを持って水を飲む。
エンポーさんが起き上がった。
ゾンビのような動きに恐怖を感じながら、見ている。
「じゃ、お帰りください」
死んだ人間のように頷いて、理科室を出ていくエンポーさん。
「麻生美華子さん」
高城が小さな声で、俺に聞こえるように言った。
「誰だ?」
俺が尋ねると、暗い顔で理科室の出入口を指さした。
「あの人の名前か」
って、エンポーどっから出てきたんだよ。
「湊さんは見えました?」
「ん?何をだ?」
「美華子さんを、殴ってた人です」
「その前に、説明しろ。
あれを見てる時、痛みが来た。実際に変わらないようなやつが」
「記憶をいじる時に出る不備みたいなものです。人間の記憶は、一つ一つファイリングされるんです。あの泡みたいなやつがそうですね」
「ってことは、あれは麻生美華子の脳内?」
「そう捉えてもらっていいです。忘れさせる場合は、その泡を潰せばいいんです。その時に、その記憶の映像に入らなければならない」
「思い出させるには?」
「人って忘れてるようで忘れてないんです。その記憶信号の奥の方に、その泡があるんです。それを、引っ張り出すんです」
「じゃ、忘れたやつ。泡を潰しても思い出すってのは?」
「これは私が思ってることですが、その泡は潰しても再度集合するんじゃないでしょうか。私には解らないですが・・・」
「最後に、存在自体消えるってのは?」
「記憶の全てを削除。正確には、生まれたという最初の泡を消すと、連鎖的にすべて消えるんです」
「それって、一部の記憶を消すとそれ以降の記憶が無くなるってことか?」
高城は話疲れたのか首をゆっくり横に振った。
そして、ビーカーに余った水を静かに飲み干した。
「記憶っていわば、知能レベルみたいなものなんです。つまり、うまく忘れられる人もいればそうでない人もいる。でも、生まれた時以前。存在しない所からは知能レベルも無いですから」
「お前、存在を消したことがあるんだな」
思ったことを口にしてしまった。
でも、止められなかった。
思い出すことに関しては曖昧なのに、完全に消えた事はスラスラと話す。
そうとしか思えない。
高城は首を縦に振る。
そして、その頬には涙が伝う。
「あの時は・・・うまく使えなかったんです」
「・・・」
何も言えなかった。
背負ってる重さがわからなかったから。
それでも、踏み込んだ。
知らなければならないと思ったから。
涙を拭いて俺の目を見た。
「それでも、生きていなきゃ。そのために・・・」
「もういい」
重い。苦しい。
「それより、さっきの続きだ」
俺は、強制的にこの話を切った。自分で振りながらそれは無いと思いつつ。
「・・・はい」
高城にも話したくないことを話させたくはない。俺が悪いのはわかってんだ。
「麻生美華子さんを殴ってた人、麻生さんじゃないでしょうか?」
まじか?
「いや、はっきり見えてないから分からない」
「やっぱり、薄かったですか。あの手帳に書いといてください」
言われるまま、その手帳に文字を書き入れていく。
「お前、これ携帯でいいんじゃないか?」
「インパクトが足りないんです」
即答どうも。
まぁ、引き受けた以上しょうがない。
あんな、怪奇現象みたいなのも見れたしな。
ガラガラ
「郁実ちゃん」
麻生さんだ。
「麻生さん。依頼内容は分かってます」
そう言えば、依頼内容は聞いてないって言ってたよな?
「あたの、娘さんの虐待の記憶の削除ですね?」
そう言うことか。
忘れたくても、忘れられないんだな。
「いや」
その一言で、俺も高城も麻生さんの方を見てビックリした。
理解した上で俺もそうだと思ったが、違うのか?
「私の依頼は、私自体の記憶削除だ」
えっ・・・
この人が何を言ったのか俺には分からなかったが。いや、聞こえたが聞こえないふりをした。さっきの話を聞いてる限りじゃ、高城はその言葉を受け止め否定するに決まってる。
「そんなことしたら、麻生さんが消えちゃいますよ」
「死にたい」と言っているようにも聞こえた。
「それでも、構わない」
「でも・・・」
俺は高城の肩に手をのせた。
「話だけでも聞いてやれよ」
その場で座り込んで、泣き出してしまった。
泣き止むのには少し時間がかった。
俺は高城のそばにいた。
泣き止んだところで、話を聞いた。
麻生さん一家は今は、麻生美華子虐待をきっかけに離婚して美華子の苗字は「円保」となっている。
別々に暮らすようになってから、毎晩夢に自分じゃない自分が出てくるらしくそれがおぞましいという。
「ある日その夢の途中で目が覚めたことがあったんだ。目の前には体と首が離された人がいて自分の手が真っ赤になってた」
「人喰いの警官って、麻生さんのことだったのか」
「なんですか?それ?」
高城が聞いてきた。
「私は、その夢の中で獣になっていた。人の肉を喰う獣に」
都市伝説じゃなくて人殺しになってる。
でも、この人は無意識のうちにやってしまっている。
「その記憶だけ消せばいいです。全部消す必要なんてありません」
高城はそう言いきった。
俺もそう思う。
「家族も、人としても地位を失っいる。もう、生きてなんかいけやしない」
言わんとしてることも分からないでもない。
おそらく、この人は向き合ったのだ。自分を受け入れようとしたんだろう。だが、現実にそんなことが起きた。自分が何なのか、分からなくなった。だから、消えたいと。全てを忘れたいと。
「それでも、私が嫌です。お受け出来ません」
高城が言っていることが正しいと思う。これからでも真っ当に生きるべきなのだ。
でも、このまま野放しにしても同じことをこの人は繰り返す。罪の意思もないのに、罪を重ねてしまう。
「お願いします」
麻生さんは、頭を下げた。
おっさんが16そこらの女の子に。
俺はそんな彼を見捨てては行けないと思った。
「受けてやれよ」
高城にかけたその言葉は、高城を深く悩ませた。
「本人の意見を尊重した方がいいのは、私も分かってるんです。でもそれは、自分から逃げてるだけに思います」
高城は自分の記憶が消えていくのが分かっている。逃げるなんて日本語は高城が嫌いそうな言葉に聞こえた。
「これは、自己満足なんだろ?」
俺と同じ自己満足。でもこれは、お前の問題じゃない。依頼者の問題だ。俺が思ってる事は口に出ない。あとは、高城郁実が答えを出すことだ。
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