異世界救済 ~5つのチート能力と美少女武器で世界を廻る~
@lovablelpeiad
第1話 はじまりは唐突に
突然の話ではあるが、俺は異世界に転生した。
転生とは言っても、輪廻転生などの生まれ変わりの類ではない。
元の身をそのまま異世界に移動……異世界転移と言ったほうが適切かもしれない。
何人かの人は「ほう、トラックにでも轢かれたのかい?」と聞いてくるかもしれない。
だけど違う。俺はトラックに轢かれてないし、神様に間違えて殺されてもいないし、魔法使いに召喚されたわけでもない。
ある日、”私達の世界を助けてぷりゅ~(´;ω;`) !!!異世界を助けたいあなたはこのメールをクリック↓!!!”というタイトルのメールが届いただけだ。
最近の迷惑メールは迷走してるなぁと思いつつ、俺はついメールを開けてしまった。
テンプレならここで異世界に強制転移されるわけだが、……俺には何も起きなかった。
開かれたメールの本文を見ると、”鯖・牛乳・爪・血・塩を混ぜた物を用意して、その近くで祈りながら眠りなさい”と書いてある。
いったい誰がそんな面倒くさいことをするんだと思いながら、俺はつい実行してしまった。
”つい”で実行するほど気軽なものではないが、酒の場のネタになると思ったんだ。
そんな軽い気持ちで儀式もどきを行ってみて、目が覚めたら荒野にいたときの気持ちをわかって欲しい。
俺は思わず頭を抱えたよ。
*****
俺は今アホみたいに広い荒野の中を全速力で走っている。
「グルルルルウウウウゥゥゥゥゥ!」
後ろから奇妙な声を出しながら追いかけてくるのは、体格が2m程度の黒い大型犬だ。
放り出された荒野の中を彷徨っていたら、突然出くわしてしまった。
一瞬しか外見を見てないが、友好的な関係を結べる気がしなかったので即座に逃げた。
「はぁっ、くそっ……、はっ」
もう既に5分間以上走っている。
体力はすでになく、気力という謎パワーに支えられているだけの状態だ。
だけどそんなものは長く続くわけでもない。
それが分かっているのか、大型犬はあえて俺を仕留めないようにしているように見える。
俺を徹底的に弱らせてから確実に喰うためだろうか。きっとそうだろうな。
大したプロ意識だ。ますます俺の死が近づくってもんだ。
ほぼ諦めモードに入っていると、急に右脇腹に衝撃が走る。
その直後、視界が勢い良くブレて軽い浮遊感とともに全身に強い痛みが走る。
「ぐはぁあッ!」
どうやら大型犬の腕に突き飛ばされたようだ。
俺は飛ばされた勢いのまま地面を転がり、大岩にぶつかって止まる。
背中から強くぶつかったため「くひゃっ」みたいな声が出た。
大型犬を見ると、口に人間の腕を咥えたままこちらに近づいてくる。
あれは誰の腕だろうか。いや、考えるまでもない。
俺は恐る恐る自分の左腕を見ると、肘から先が無くなっていた。
その断面からは心臓の鼓動に合わせて血の噴水が噴いている。
一体いつのまに喰われたのか……全くもって気づかなかった。
「あぁ……はぁっ……ぁ……」
思わず悲鳴というかうめき声が出た。
もうダメだ、確実に死ぬ。
あぁ……父さま母さま、俺は今からそっちに行きます。
妹よ、マジですまないと思っている。達者に生きてくれ。
そしてそのまま俺の意識は途切れた。
*****
目が覚めて起き上がると真っ白い空間にいた。
「やぁやぁ、いらっしゃい白瀬隼人君」
突然名前を呼ばれたことで身体がビクッっとするが、何もびびってませんよと言わんばかりにゆっくりと後ろを振り返る。
振り返ると少女が白い椅子に座っていた。
少女の肌も椅子と同じく白で、紅いツインテールが目立つ。
脳内で紅白歌合戦という単語が浮かんだが、紅白の部分しか合っていない。
「女神か?」
俺は無意識のうちに声に出した。
女神である根拠は何もないが、異世界モノの小説をたくさん読んだ経験に培った推測だ。
この展開は女神の登場で間違いない。
それにしてもロリ女神か。まぁジジイ神と比べると当たりかな。
俺の言葉を聞いた直後、少女は一瞬だけ驚いて難しい顔をし始めた。
そりゃあそうだよな。
気持ちとしては、傷ついた犬を助けたら第一声が『人間か』って言われるようなものだからな。
そんなこと言われたらまずは驚くし、お礼を言えよって思うよな。
ん?……そもそも俺は助かったのか?それとも死んでここに連れられたのか?
まぁどっちでもいいや、とりあえず今からお礼を言おう。まだ遅くないはずだ。
「俺を助けてくれたのか?感謝している」
「へっ?あぁ、うん。いいよいいよー」
女神は若干苦笑い気味だが、俺の感謝を受け入れてくれた。
いやぁ、よかったよかった。左腕も治ってるしね。
欠損状態から異世界生活スタートなんて勘弁だ。
「遅くなったけど私の名前はリリンティアルマデスタ。でも大抵は“遊戯の女神”って呼ばれているかな」
リリ……なんだって?
まぁ遊戯の女神と覚えればいいか。
遊戯の女神ってことは遊びを司っているのか、遊びすぎて周りからそう呼ばれているのかのどっちだろう。
まぁ自己紹介で言う時点で前者だろうけど。後者だったら自虐もいいところだ。
「遅くなったけど俺の名前は白瀬隼人。でも大抵は“堕落した人間”って呼ばれているかな。ところで俺は生きてるってことでいいんだよな?」
人間は似た行動を取る人に対して好感を持つという。
というわけで、あえて女神と同じような自己紹介をした。
「そうだよー。まぁ普通は人間に干渉しないんだけど色々事情があって助けちゃった。テヘペロ」
テヘペロって言いながらあっかんべーをしてくる。
なんか色々と違うぞ。
「俺を助けた事情?気まぐれか哀れだと感じたかと思っていたが」
「気まぐれはちょっとあるかも。だけど哀れだとは思わないよ。あの世界では日常茶飯事だし」
やはり随分と厳しい世界だったようだ。
少なくとも日本産転移者は序盤からチート能力を貰うか、町スタートじゃないとやってられないぞ。
無能力・無装備・荒野スタートってなんなんだよ。あの迷惑メールめ。
「そういえば、なんでこの世界に来たの?」
「……理由は特にないな」
実質事故みたいなもんだしな。
小指を椅子の角にぶつけた人に対して「なんで小指をぶつけてるの?」と聞いているようなもんだ。煽っているとしか思えない。
「この世界に何か異常が起きてるの。それを調べるために来たんじゃないの?」
「うーん、世界を旅するついでに調べてみてもいいかもしれないな」
せっかくファンタジー世界に来たんだ。
正直そんな調査員みたいなことしたくない。
「はぁ……今回もダメかも。まぁいいや、とりあえず私の祝福をあげる」
その直後、脳内に謎の声が響く。
《【祝福:遊戯王】を取得しました》
「おい!その名前はダメだろ!」
脳内に流れた声に思わず突っ込んでしまった。
いや、もう別の世界だから問題ないのか?
……だめだろ。ここは断固として抗議運動を起こすべきだ。
まさか名前で怒られると思わなかったのか女神が不服そうにしている。
いくら女神でも地球のカードゲーム名までは把握出来ないようだ。
「え?なんで……分かりやすいし覚えやすいと思ったのに」
「いや、すまんな。せめて『戯』を『◯』表記にしてくれ。そうすれば許される気がする」
女神は「誰に許してもらうの……」と呟きながら空中をボーッと見つめている。
おそらくは何らかの方法で名称を変更する作業をしているんだろう。
どうせならそのまま祝福自体も変えて欲しいんだけどな。
だって【遊◯王】だぜ。カードゲームでどうやってあの大型犬を倒すんだよ。
もしかしたら、カードに書かれた能力を現実で発動できるチートの可能性もあるが。
あれ?そう考えるとかなり強いかも?
《【祝福:遊戯王】を喪失しました》
《【祝福:遊○王】を取得しました》
「ふぅ、とりあえず名前を変えておいたから。まったくー、結構めんどくさいんだよ?」
女神がため息をつきながら愚痴を言う。
ちょっとだけ申し訳ない気がする。
「じゃあ、【祝福:遊◯王】について説明するね。この祝福も持っていると、私が作ったゲームに参加することができるの。そしてそのゲームで勝つことができたら君の望みをある程度叶えられる。ちなみに負けたら死にます。どう?単純でしょ?」
は?
いやいやいや、俺の能力ってデスゲームで遊ぶことなの?
それならもっとクレイジーなピーポーに渡してくれよ。
常識人の俺には荷が重すぎるんだが。
名前も危険なら、能力の内容も危険なのかよ。
「なぁ、もっと軽い能力とかないのか?相手の能力を強奪するとか成長度100倍になるとかさ」
軽い能力だと自分でも思わないが無視することにする。
「スキルで似たのがあるからゲームに参加して手にすればいいじゃないの。それに私が助けなければどうせ散る命だったし」
「ちなみに、ゲームの参加を断ればどうなる?」
「元の場所に戻るかな。傷は治るけど外の時間は経ってないから例の魔物はそのままいると思う。あとは、私が与えた祝福は消えるね」
「安全なところに戻してくれないのか?」
「だめだめ。そういうことなら、ゲームで勝ってからお願いして」
実質参加強制じゃねーか。
全快したとしてもあの大型犬をなんとか出来る気がしない。
このタイミングで俺に祝福を与えたのはワザとだよな? 明らかに故意だよな?
う~ん、でも願い事が叶うって部分に惹かれるなぁ。
女神の言うとおり、どうせ散る命だったしオマケ程度で参加してもいいかもしれない。
しかもゲームだろ? 数少ない俺の得意分野じゃないか。
「あぁ、わかったわかった。参加すればいいんだろ? ゲーム内容の説明もしてくれるんだよな?」
「あっちで説明するから安心していいよ―」
「あっち?」
女神がパチンと指を鳴らすと、俺の真下に魔法陣が現れる。
「ばいばい~。隼人君なら生きて帰れることを信じているよ~。まぁ嘘だけど~」
「おいッ!」
女神の不穏なセリフを聞きながら目の前の視界がどんどん白くなっていく。
何も見えない真っ白な視界になってから数秒後、突然俺の目の前には多くの人が現れた。
いや、俺がどこかに転移されたのか。
辺りを見渡すと、中世ヨーロッパ風の大広間の中にいるみたいだ。
その大広間には大勢の人……人とは言っても、ファンタジー小説で言う獣人族や、巨人族らしき者も大勢いるようだ。
髪の色も目の色も様々で非常にカラフル的だ。
「やぁやぁやぁ。皆さん、“黄泉の回廊”に参加してくれてありがとう!じゃあ早速ゲームの説明をするね」
校内放送のような声が流れて、さっきまでざわついてた音が静まる。
姿は見当たらないが女神の声だ。きっと謎パワーか何かで話しかけているんだろう。
……40分後、女神からのゲーム説明を聞き終えた俺は人生で最大の選択ミスをしたことを嘆いていた。
*****
「もうそろそろかな?」
白い部屋で紅色の髪をもつ少女が呟いた。
その瞬間、魔法陣が展開され光とともに一人の青年が姿を現す。
その青年の名は白瀬隼人。
5分前ほどにゲーム”黄泉の回廊”に参加するため、別の空間へワープをしていった者だ。
わずか5分しか経ってないとはいえ、隼人の目や顔つき、雰囲気は先ほどとは大きく異なっていた。
「よう女神、久しぶりだな」
隼人が女神に声をかける。
5分会わないだけで久しぶりと呼ぶほど隼人は時間間隔が狂ってはいない。
隼人はゲーム内で1年以上の時間を過ごしてきただけだ。
「ここは5分しか経ってないんだけどね。いやー、まさかクリアするなんてねぇ。ホント何が起こるかわからないよ」
女神が嬉しそうな口調で言うと、隼人は若干険を込めた視線を向ける。
それの視線をなんとも思わないかのように話を続けた。
「まぁまぁ、早速隼人君の望みを聞こうか」
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