第3話

気がつけば、住み慣れた街から南へ30㎞ほどにある廃城にいた。一体なんでこんな事になってしまったのだろうか。移動中にラースは、改めて自己紹介をしてくれた。彼は、昔話に登場していた魔王に仕えていた幹部の子孫だという。その幹部の子孫も今では四人だけになってしまい、権力争いが絶えないという。そこで、争い疲れた彼は良さげな人を見つけて、魔王に仕立ててしまえばいいか、と気楽に考えていたそうだ。彼の言う事は、理解できそうだったけれども、未だに自分がなぜ連いていったのかが、理解できない。彼に言われると深く考えられなくなって気がついたら彼の言いなりになっている。って、完全に嵌められてないかぼく!と頭を抱えていると。

「おやおや、どうかいたしましたか?頭痛なのでしたら、お薬を持ってきましょうか」僕は、声のした方にばっと顔を向ると、そこには痩せこけた身体のラースが立っていた。彼に少し早口になりながら答えた。

「いえ、あの。頭が痛いわけじゃなくってですね。僕は何でここにいるのかなーって思って、思い出そうとしただけですよ」

「なるほど、街からだいぶ歩きましたからね。あと少しの所で疲れて眠ってしまいましたから、まだ思考がまとまっていないのでしょう。焦らずゆっくりと思い出してはいかがです?」

「そうですね。そうします」と気がついたら答えていた。その答えを聞き、優しそうな笑顔で頷くと。

「では、お腹は空いてませんか?もし良ければ、用意させますが」

「あ、はい。お願いします。まだお昼ご飯食べてたなかったんですよね」ラースは、笑顔から苦笑いに変わり告げた。

「今は、我々の出会いから一度陽が落ち、また昇り始めた頃なので、ほぼ、1日ぶりのご飯のようですね。調理に多めに作るように言っておきますね。では、準備が整ったらまた、声をかけますので、それまではこの部屋でゆっくりしていてください」と、一度お辞儀をしてから出て行った。僕は落ち着いた気持ちで周りを見回し、椅子と机しかないのを確認する。逃げ道はなさそうだった。


どのくらい時間が経ったのか分からないけれど、朝食の準備が出来る前に、かすかな爆発音が聞こえた、気がした。音が小さ過ぎるので気のせいだろうと思ったけれど、部屋の外が徐々に騒がしくなってきたのははっきり聞こえる。そこでやっと、ここの外で何かが起きているのが分かった。喧騒がこの部屋に近づいてきた時、僕を呼ぶ声が聞こえた。その声が聞こえた時には、扉を開け出て行こうとしたが、目の前にラースがいた。これまで見た笑顔とは違い、寒気を感じるような笑顔だった。

「部屋でゆっくりしててくださいと、言いましたよね。さぁ、お戻りを」僕は、彼から感じる威圧感から逃げるように後ずさった。ラースは頷くと、扉に手を掛けようとした時、ガルドの声がはっきりと聞こえた。大声でガルドの名前を呼ぶと、ラースは苛立ちながら部屋に入って僕を捕まえようとした。一生懸命逃げ回ろうとしたけれど広くもない部屋だったので、あっけなく捕まり別の部屋へと運ばれた。そこは、遠い昔に玉座の間として使われていたであろう部屋だった。僕を椅子に座らせるとラースは部屋を出て、すぐに人の形をした何かを連れてきた。

「そんな顔しないでくださいよ。これでもやっと人間の形を維持出来るようになった成功例なんですから。同じ人間同士仲良くしてあげてくださいよ」確かに、見た目は人間と同じだけど、動きはぎこちなくやや前傾姿勢のが多かったが、一人だけ街にいても違和感のないほどの個体がいた。

「あぁ、彼は完成形ですよ。試作23号と呼んではいますがね。後は思考を工夫しないといけないのですが、十分な出来だと自負しているのですよ」ラースは僕に、自慢するように言ってきたが、少し落ち込んだ様子で言葉を続けた。

「しかしですね、思考を工夫しようとすると、どの子も壊れてしまうのですよ。壊れ方は調整の仕方でその都度違いますが、どれもこれもダメになってしまうんですよね。はぁ・・・」

「人の命を何だと思ってんだ!」

「大切な道具ですが、何か?」思わず掴みかかろうとした時に部屋中に聞こえるほどの大声が響いた。

「面倒ばかりかけやがってよ!あぁ、無事か?!今助けてやるから待ってろ」と駆け込んできたガルドは一点を見つめて動きが固まった。目線の先には試作23号と呼ばれていた個体だった。彼から想像出来ないくらいの弱々しい声で呟いていた、兄貴と。そして、表情が一瞬で変わり、ラースを見た彼は全身から殺気が溢れていた。この瞬間魔物のラースより、人間のガルドの方が怖かった。根本的には魔物や人間

に違いはないのかもしれないと思った。


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冒険者の成長記−アルバートの場合− 樹 雅 @huuga

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