第2話

冒険者ギルドでガルドとの出会いから数時間たち僕達は街北側から出てすぐの森の中にいた。ここには、たいして脅威のある魔物は出ない所で新米冒険者を育てるのにちょうど良いらしい。

「おい、ガキ!俺から離れんな。死にてぇのか!」どうやら、今日はいつもとは違うらしい。僕達は、今、数十匹の狼に囲まれています。本来なら狼は数匹で群れているはずなのに、なぜ、こんな事になっているかというと、他の冒険者達になすりつけられたからです。確かに生きたいと思う気持ちは分かりますが、せめて一緒に戦って欲しかった。だってさ、これが僕の初陣だよ!生き残れるのかな。

「気をしっかり持て!現実逃避してても、状況が、よくなる、訳じゃねーんだからよ!」ガルドは、回避と攻撃を繰り返しながらも激励してくれていた。その気持ちに応えたいけれど、僕にそんな余裕はない。逃げ回るので精一杯なのだから。時たま剣を振っても空を切るだけで泣きたくなってくる。

「いいか、動きの早いやつには飛び込んでくる軌道上に剣を置いておけば、後は敵さんの勢いで勝手に斬れる。傷の深い浅いはあるが、動きが鈍くなるまでは我慢あるのみだ」と、実演しながら教えてくれた。僕は、気合を入れ直し狼の動きに意識を集中させ、飛びかかってきた一匹で試してみる事にした。前から左肩に噛みつこうとしているので、右斜め前に移動し、さっきまで肩のあった位置に剣を置いた次の瞬間、初めて肉を断つ感触を味わい、直近から返り血を浴びた。それらの感覚に僕は、恐怖した。


しはらく戦闘が続いた後、街からの増援もあり、狼を追い散らす事が出来た。ガルドは僕の震えが全く止まらないのを見て、優しく街まで連れ帰ってくれた。部屋で休んでいても、狼を断った時の事を夢に見るのだった。

次の日の朝、ガルドに会いにギルドへ行ったけれど、「そんな状態じゃあ連れてけねぇよ」と言われてしまった。まぁ、目の下に濃いくまがあるんだから、仕方がないか、と帰ろうとした時に「おい、待てよ。今日はお前が冒険者を目指した理由を聞かせろ。」と背中に声をかけられた。僕は、ガルドの待つテーブルへと向かい、椅子に座った。と、同時に受付のお姉さんが飲み物を持ってきてくれた。頭を下げると、笑顔で答え受付に戻っていった。飲み物を一口含みガルドの目を見ながら、話し始めた。目指した理由を聞いた時だけ、ガルドは目を伏せたが、それ以外では真っ直ぐに見つめてきた。語り終えてから、しばらく沈黙が流れ、ぽつりとガルドが呟いていた。「やっぱりか」と。

「何がやっぱりなんですか?」と聞くと、

「お前冒険者には向いてねぇよ。俺達はな、どんな理由でもいいから魔物を殺したいほどの憎しみがあるもんなんだよ。だけどな、お前にはそれがない」

「ないと、ダメなんですか」

「別にダメじゃねぇけどよ、続けていくにはちっと辛いぜ。自分達の勝手で命を奪っていくんだからよ。どんなに綺麗な言葉を並べたって、殺しは殺しだからな」少し表情を緩めながら言葉を続けた。

「1日かけてじっくり考えて、続けるならばまた来い。その時は、厳しく育ててやるよ」


どのくらい歩いたのだろうか、気がついた時には辺りに人の影さえない場所にいた。ここは長年住んでいる街なのに全く見覚えがない場所だった。

「君がなぜ魔物を憎まないのか、考えた事がありますか」塀の上に座り、空を見上げる痩せこけた長髪の男が聞いてきた。突然現れた彼を見た。見続けた。すると、彼はやや恥ずかしそうにしながらにがわらいした。

「あの、見られ続けられるのはあまり好きではないのでやめてもらえませんか。後、質問にも答えてくれると、こちらも力を貸しやすいのですが」

「えっ、あの、力を貸すって、どういう事ですか?」

「あれ?『困った時は無償でどんな事でも力を貸してくれるイケメンがいる』って噂を聞いて来たのではないのですか?」

「全く聞いた事ないです」と、きっぱり答えると、彼の時間は止まってしまったみたいに動かなくなったので、あわてて言葉を続けた。

「ち、力を貸して頂けるなら是非とも貸して欲しいです。えっと、魔物をなぜ憎まないのか、考えた事はないです!」すると、ニヤニヤしながら、承った!っと叫びながら、近くに飛び降りてきた。

「では、先ずはお話をしようではないですか。君のご両親は、ご健在ですか」

「・・・知りません」

「知らないですか、なるほど。では、ご両親と自らの意思で離れて暮らそうと思ったのですか?」僕は首を横に振った。

「ほほう、では、ご両親の意思で離れて暮らす事になったと。それはつまり、捨てられたという事ですかな」息を飲みながらも睨みつけた。

「おぉ!怖い怖い、睨まないでくださいよ。しかし、良い目をしていますね。怒りが深まればいずれ憎しみへと変わるもの。君は、魔物よりも人がお嫌いのようですね。ご両親なりご両親との関係を知った者が何よりも憎いようですな」否定しようとして、口を開いても声が出ず、ただただ口の中が渇くだけだった。そんな僕の反応を楽しそうに眺めながらはっきりとこう告げたのである。

「では、人間側で憎い相手がいるのならば、魔物側についてしまえばいいじゃないですか。君は、立派な魔王になれますよ。このラースが保証致します」と。

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